朝日「軍艦島の徴用工」社説に疑義あり 女性センター長が質問状を出した根拠

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元島民の証言を信じないメディア

 加藤センター長の話を続ける。

「朝日の論説委員にもお目にかかりましたが、すでに固定観念をもっており、社是とする説や、それまで抱いていた端島のイメージと、島民の語る端島の現実にギャップがあり、社説ではあのような書きぶりで、証言を否定したのでしょう。市民の人生は記録に遺らず、日常の延長線上にある庶民の営みや暮らしの描写は、段々と人々の記憶から消えていきます。しかし産業の現場では、業務報告書や記録を遺す習慣があります。特に炭鉱のような厳しい現場では、事故を未然に防ぐために、些細なことでも記録に遺します。センターで公開しているのは、働く人も物資も不足する戦時中に、端島という職場と暮らしが一体化した島で、どのような距離感で人々が共存し何を見たのかを語る貴重な証言と記録です。しかし一部のメディアの方々は、『犠牲者はどこだ。半島出身の労働者を虐待したという事実が公開されていないのはおかしい』の一点張りです」

 加藤センター長が「端島の調査で、70名のお話を伺いましたが、虐待の事実があったという証言はありませんでした」と反論すると、「だったら他の炭鉱に例があっただろう、それを調査しろ」とか、「どうせ証言しているのも全部会社側の人間だろう」とか、「戦時中、未成年の証言は信用ならない」、「端島の島民全員から聞き取ったのか、2000人いた島民のたった70名では有効でない」と難詰してくる。完全な言いがかりだ。

朝日新聞の回答

「耳を疑ったのは、ある大手メディアの論説委員の方が『在日は韓国にとって祖国の裏切り者という側面がある。なぜ韓国が嫌がる展示をして刺激するのか。韓国にいる韓国人の証言しか信用できない』と発言したことです。勇気を振り絞って真実を証言してくれた元島民に大変失礼だと思います」(同・加藤センター長)

「政府に都合のよい証言だけ集めたのだろう」と言われた事もあるが、加藤センター長は「政治的意図はありません」と胸を張る。

「センターでは昭和3年に宮崎県に生まれ、小学生の時に端島に移住した男性の証言も紹介しています。インタビューを撮影した動画の中で男性は、日本政府の外交姿勢を批判しています。ある政府の関係者から『何も国の施設でこのような証言を展示しなくても』とのご批判もありましたが、これも貴重な証言ですから、私はそのままにしました。中庸だと、右からも左からも批判を受けます。今後もありのまま歴史的事実だけを追い求めていくつもりです」(同)

 朝日新聞に対し、事実関係の確認や、改めて社説の根拠を教えてほしいと取材を申し込むと、文書で回答があった。その全文をご紹介する。

《読者からのご意見ご感想や取材対象・関係者からの問い合わせ等について、本社は社外に公表することは原則として致しません。貴誌は7月9日付社説の根拠についてお尋ねされておられますが、社説に記述しました通りです。日本各地で労務にあたった朝鮮半島からの労働者につきましては、さまざまな公文書などが存在し、研究発表もなされているところです。よろしくお願い申し上げます》

今後、朝日新聞は?

 朝日新聞は7月16日に加藤氏にも回答を行っている。デイリー新潮に対する回答にある《日本各地で労務にあたった》から《研究発表もなされているところです》の部分は、加藤氏への回答書とほぼ同じ内容のようだ。公文書や判例について具体的に質問したはずだが、出典を明示することはなかった。

 元島民の会も朝日新聞に対して抗議文を送ったという。今後、朝日新聞がどのような対応をするのか、どのような報道を行うのか、注目される。

週刊新潮WEB取材班

2020年7月25日掲載

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