私がカンパやクラファンをやらない理由 他人に支援を頼む難しさ(中川淳一郎)

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 ジャーナリスト・岩上安身(やすみ)氏率いるネット報道メディア・IWJのメルマガを取っているのですが、とにかくカンパのお願いが多いんですよ。会費とカンパで成り立っており、「私が報道を続けるには皆さんの支援が必要です!」とばかりに、時には「緊急のお知らせ」と、赤字に陥っていることを訴える。同氏がこの組織を立ち上げてからもう10年も経つのですが、毎年カンパのお願いと緊急事態宣言ばかりしている。

 意義のある報道をしているのだから皆様の浄財をぜひとも我々に!とやりたい気持ちは分かるけれど、カンパや寄付ほど恐ろしいものってないんですよね……。

 最近、クラウドファンディングで「納豆定食生涯無料」のパスポートを1万円で売った会社がありました。そして、税別600円のこの定食を15回ほど無料で食べた客が「信頼関係が損なわれた」として、パスポートを没収されたんです。当然この人はSNSで文句を書きますし、約束が不履行となっただけにネットでは「詐欺だ!」の声が多数出ました。

 私のように他人の善意なんてもんにほぼ期待しない人間からすれば、この納豆屋の考えなんて甘っちょろすぎるんですよ。もしかしたら無料の定食は年間1回しか利用せず、これから毎年20回は千円の定食を食べに来てくれるかも♪ と思ったのかもしれませんが、そんなワケがない。

 没収した客には返金する結果となったのですが、見知らぬ他人に支援を頼むからこんなことになるんです。しかも、返金する場合は「SNSに書くな」といった命令までする始末。いや、お前、最初の約束守んなかったのになんでそんなにエラソーなんだよ、と客は思うことでしょう。

 冒頭のIWJも「1200万円の赤字!」などと悲痛な声を上げているだけに苦しいのでしょうが、有力カンパ人が「いい加減に収益を上げろ!」とキレでもしたら今度は最恐の敵になってしまうかもしれません。

 同団体は有料会員が増えればカンパは不要だと述べていますが、HPを見ると2016年8月末の人数が1681人で、翌年9月末で1855人。そこから先の記述はないのですが、反政権的な論調と「市民によって直接支えられるインターネット報道メディアです」という理念に共感する層、そしてお金まで払ってくれる層はすでに囲い込んでいるような気がするんですよね……。

 過去に私もメルマガビジネスに参入したことがあるのですが、すでに「メルマガ好きな層にはもうこれ以上メルマガに使う時間がない」後発組だったため、すぐにやめました。

 余計なお世話ですが、私と従業員のY嬢との2人ライター会社が、カンパ一切ナシでもIWJより年間収入が多い年もありました。だから「もっと儲かる商売やればいいのに……」と思ってしまうんですよね。

 貴様のような理念も思想もない銭ゲバと、我々のような崇高なる存在は違うんです!と言われるかもしれませんが、私は「タダほど恐いものはない」を実感するからカンパやクラファンには手を出さない。それに加え、自分は社会に必要な人間だと殊更アピールする恥ずかしさをよく知っていますし。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年7月23日号掲載

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