Netflix「日本沈没2020」は日本ヘイトか、はたまた原作への冒涜か

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日本人は外国人を排除しようとしているのだろうか?

 原作小説もそうだが、「日本沈没」は日本人のアイデンティティが根底にあり、2006年版の映画版の公開に合わせて刊行された続編となる小説「日本沈没 第二部」(2006年)では、日本という国土を失った25年後の世界を描き、世界に散って流浪の民となった日本人のそれを更に鮮明に打ち出している。

 アニメの中で興味深かったのは、武藤家族の扱いだ。武藤姉弟は日本人の父とフィリピン人母との間に生まれ、血統から見れば純血な日本人ではない。日本からの脱出船に乗れるのはマイナンバーによる抽選という設定だが、スポーツなどで将来を嘱望される日本人は別枠で乗れることに。ここで家族とは別に陸上選手として将来を嘱望される歩だけが選ばれる。

 一方、日本から脱出する船を用意した民間団体は日本人だけを乗せるといい、フィリピン人である母親のマリの乗船を拒む。姉弟の父親が日本人だと告げると、ならどちらか一人だけを乗せてやるということに。

 このふたつのエピソードは、今の日本の世相を反映しているといえる。

 スポーツ界では両親の片方が外国出身の日本代表選手の活躍が著しい。八村塁や大坂なおみ、他にも多くの日本代表として活躍する外国人の血を引く選手は少なくない。ラグビー日本代表キャプテンのリーチ・マイケルのように日本に帰化して日の丸を背負って活躍する外国出身の選手もおり、彼らをリスペクトしない日本人はほぼいないだろう。

 スポーツは国威高揚の手段のひとつであり、日本だけでなく優秀な人材を自国民として受け入れたいと考える国は少なくない。剛は日本生まれではあるが、本人はITが発達したエストニアに住みたいと描かれているのがユニーク。国を意識しない世代が増えつつあるのが令和の世なのかもしれない。

 一方、これとは対照的なのは、日本人のみを救助するという民間団体の救助船の設定だ。現代社会では外国人排斥を謳うヘイトスピーチや集会は現実的に行われており、在特会など右翼系団体も多い。恐れずにいえば、現政権もそのきらいがある。例えば、日本国民への10万円の特別定額給付金だが、日本に定住する外国人は対象外であった。日本国民と同じ税金を払い、日本に住む者としての義務を果たしているのにも関わらず。日本国籍を持っていないのだから仕方ないよという意見もあるが、非常時の救済措置という点から、このエピソードがオーバーラップした。

 主人公の家族だけではない。旅で合流するダニエルもそうだ。ユーゴスラビア出身のマジシャンである彼が、自分の国はもうないとポツリと言うシーンがある。これは列島沈没によって国が崩壊する日本を暗示する台詞であり、明るいキャラ設定だからこそ、国を失うことの意味を垣間見たようで、この台詞にはドキリとした。これまでの「日本沈没」では、外国人の被災民の姿が描かれていなかっただけに、新たな試みだといえる。

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