広島「堂林翔太」がついに覚醒! やっと本領を発揮し始めた“遅咲き”の男たち

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 6月27日に行われた阪神対DeNAの一戦、一人の投手がスポットライトを浴びた。阪神の6番手で登板した伊藤和雄である。8回裏からマウンドに上がり、2三振を奪ってDeNAの攻撃を三者凡退で退けると、続く9回表にチームが勝ち越し、実にプロ入り9年目での初勝利を手にしたのだ。

伊藤は東京国際大の4年時にエースとしてチームをリーグ戦初優勝に導き、大学選手権でも準決勝に進出。その活躍が評価されて2011年のドラフト4位で阪神に入団した。

しかし、プロ入り後は故障もあって、一時期は育成選手も経験している。長い下積みを経てのプロ初勝利に胸を熱くした阪神ファンも多かったことだろう。

そして伊藤のように、長く結果が出なかった選手が思わぬ活躍を見せることもプロ野球の醍醐味の一つである。そこで今回は今シーズンの活躍が期待される“遅咲き”の候補を紹介したい(※成績は7月5日終了時点)。

 開幕スタートに失敗した広島だが、そんな中でも好調な打撃で奮闘しているのが堂林翔太(広島)だ。プロ入り3年目の2012年には野村謙二郎監督(当時)の期待を受けていきなり全試合出場を果たし、チームトップの14本塁打を放っている。

だが、その一方で150三振、29失策と攻守ともに粗さが目立ち、翌年以降は徐々に出場機会が減少。2015年からの5年間で放ったホームランはわずか3本と自慢の長打力も完全に鳴りを潜めていた。

ところが今年はキャンプ、オープン戦から好調を維持して6年ぶりとなる開幕スタメンを勝ち取ると、6月25日の巨人戦では実に1121日ぶりとなるホームランを放つなど、打線を牽引する役割を果たしている。松山竜平が復帰した後は本職ではない外野でもスタメン出場を果たしており、今やチームにとっては欠かせない存在であることは確かだ。

元々しかけが早く、積極性が売りの打者だが、今年は追い込まれてからも粘ることができるようになった。ここまで放った2本のホームランはいずれもフルカウントからのものであり、飛距離も十分と強く振りきることができている。ヒットの方向もきれいに三方向に打ち分けており、持ち味である右方向へのバッティングが戻ってきた印象だ。期待されていたメヒアが不振に陥っているだけに、今後さらに堂林のバッティングにかかる期待は大きくなりそうだ。

 先発投手で大きな飛躍の予感を感じさせるのが今年でプロ入り7年目となる平良拳太郎(DeNA)だ。2013年のドラフト5位で巨人に入団したが、一軍での登板はわずか1試合で2017年オフに山口俊(現ブルージェイズ)のFAによる人的補償でDeNAに移籍。2018年からは2年連続で5勝をマークしたが、昨年は防御率4点台と不安定な投球が目立った。

しかし、今年はプロ入り後初めて開幕ローテーション入りを果たすと、ここまで3試合、19回を投げて被安打10、自責点2、防御率0.95という抜群の成績を残しているのだ。セイバーメトリクスの指標で、1投球回あたり何人の走者を出したかを表す数値は0.68と、先発投手としては驚異的な数字を叩き出している。

ストレートは140キロ台中盤と目を見張るような速さはないものの、フォームに躍動感が出てきたせいか、数字以上に威力を感じる。また140キロ近いスピードで打者の手元で小さく変化する速いシンカーも、バットの芯を外すのに有効な武器となっている。チームは先発投手陣の故障者が多く、コマ不足に苦しんでいる状況だけに今後もエース級の活躍が期待される。

 一方のパ・リーグの先発で開花の兆しが見られるのが杉浦稔大(日本ハム)だ。国学院大時代から大型右腕として評判で、2013年のドラフトでは外れ1位ながら2球団が競合となりヤクルトに入団。即戦力として期待が大きかったものの、度重なる故障で結果を残すことができず、プロ入り4年目の2017年シーズン途中で日本ハムに移籍となった。

今季初登板となった6月21日の西武戦は球数がかさんだため4回で降板となったものの無失点。続く28日の楽天戦では首位を走る強力打線を相手に3回までパーフェクトピッチングを披露。最終的には2点を失ったものの6回を投げ切り、今季初勝利をマークした。

元々球持ちが良く、ストレートで押せる本格派だが、今年はここまでのピッチングを見ているとそのストレートのコントロールミスが減った印象を受ける。まだ2試合での登板ではあるが、10回を投げて12奪三振をマークしており、そのうち9個の決め球がストレートというところに球質と制球の向上が表れている。チームはエースの有原航平が開幕から3連敗と苦しんでいるだけに、杉浦にかかる期待は大きくなりそうだ。

 今年は開幕が遅れたことが影響してか、各チームで故障者も増えてきている。そうなった時にチームをカバーするのが、今回取り上げたような選手となる可能性も十分に考えられる。今後も新たな“遅咲き”の選手が登場することを期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月12日掲載

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