韓国不動産バブル、”公務員は家1軒残して売却”勧告…拒否すれば昇進できず

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ソウルのマンションは52%上昇

 韓国は首都圏への一極集中から住宅が不足し、不動産価格が高騰を続けている。
 文在寅政権発足から3年間で全国のサラリーマン向けマンション価格は20%上昇、ソウルに限ると52%も上昇した。そこで2020年7月8日、新型コロナウイルスに関する中央災難安全対策本部会議が開かれ、丁世均(チョン・セギュン)首相は、各官庁と自治体の高位公職者の住宅所有実態を調査するよう指示を出した。住宅を複数所有する上級公務員に対し、居住している1軒を残して売却処分を勧告するためだ。法的な拘束力はないが、従わない公務員に対し、昇進や人事評価で不利益を検討するという。

 文在寅政府は投機目的の住宅所有が価格高騰の原因だとして複数所有を制限し、公務員が率先して居住住宅を除く住居用不動産を手放すように促したいのだ。

 青瓦台(大統領府)は19年12月、住宅を2軒以上所有する職員に、1軒を残して他を売却するよう勧告を出したが、拘束はせず各自の判断に委ねていた。
 盧英敏(ノ・ヨンミン)大統領秘書室長に関しては、半年を経過してなお複数住居を所有していることが知れ渡り、批判を受けると1軒残して他は処分すると公表し、他の高官に追随を呼びかけた。対象となる高官は12人だ。

 盧英敏室長は、ソウルと忠清北道清州(チョンジュ)にマンションを所有しているが、清州の住宅売却を公表すると、選挙区を捨ててソウルを残すのかという批判が起こり、ソウル盤浦のマンションを売ることにしたという。

 一部の公務員は2012年からはじまった政府機能地方移転で、家族が住む首都圏の住宅を残したまま地方の単身転居先で住宅を購入した。勤務先が世宗市に移転した上級公務員750人のうち、248人が複数の不動産を所有しており、家族の住居か自身の住居のいずれかを残して処分しなければならなくなる。

 もちろん投機目的の不動産所有が多いことは否めない。
 韓国は安全に投資できる適格投資案件が圧倒的に不足しており、個人投資は不動産に集中する。国民の資産から負債を差し引いた国富は85.5%が不動産で、18年の韓国の不動産資産は国内総生産(GDP)の約7倍に達している。国内の生産活動で生じた金銭を7年間、1銭も使わずに貯金し、不動産に投資した計算だ。
 日本は4.8倍、米国は2.4倍、カナダ3.9倍、英国4.4倍、フランス5.5倍などの数字を見てもわかるように、総資産に占める不動産の割合は韓国が世界最高水準なのだ。

 この投機を後押ししているのは、チョンセ(伝貰)という世界に類を見ない韓国特有の不動産賃貸システムだ。賃借人は入居時に売買価格の5割から8割の“チョンセ金”を家主に預け入れる。契約期間中の家賃負担はなく、払い込んだチョンセ金は退去時に全額が返還されるシステムだ。

対象となる公務員は260人にすぎず、価格安定に影響するとは思えない

 チョンセ制度は朝鮮戦争直後から広がった。多くの人がソウルに流入し、地方の資産家が不動産を買い占めたことも相まって、不動産価格が高騰した。当時、銀行には住宅資金の融資制度がなく、中産階級の住宅購入は困難になった。

 1960年代の韓国の預金金利は経済成長率を上回る17.4%で、1970年代には12.2%、1990年代には約10%まで下がったが、資産家はチョンセ金を預金するだけで、家賃収入と同等か上回る収益を得ることができた。
 チョンセの預かり金とマンションを担保にした銀行からの借入れで、2軒目、3軒目の賃貸用マンションを購入する投資家もいた。

 2000年代に入って金利が下がると、利子収入が期待できない資産家は値上りによるキャピタルゲインを求めて不動産投機にいそしんだ。
 韓国都市部の住宅開発は数千戸からときには数万戸規模で行われる。多くは自治体が土地を確保し、入札で開発業者を選定する。

 自治体が主導する大規模造成地は不便な場所が多く、新築時の分譲価格は低く設定されている。開発が終わると自治体の手を離れ、また、商店やコンビニ、スーパーなどの便宜施設が増えて行く。バス路線が開設されて地下鉄駅が整備されるなど利便性が飛躍的に向上すると、不動産価格は高騰する。

 ソウルのベッドタウンとして知られる城南市盆唐区は1990年頃から開発がはじまった。当初はソウルの江南まで自家用車等で1時間をはるかに超えたが、道路や鉄道が整備されると不動産価格は上昇した。新築時に2000万円で売り出されたファミリーマンションは2億円近くまで高騰している。

 自己資金が不足する投機家は、チョンセ制度を利用する。完工に合わせて購入したマンションの入居者を募集し、入居者から払い込まれるチョンセ金で不足する購入代金を補うのだ。
 チョンセ金は退去者に全額返還しなければならないが、投機家は新たな入居者から預かるチョンセ金を退去者への返還金に充てる“自転車操業”を繰り返しながら、値上がりを待ち続ける。

 文在寅大統領の支持率は、新型コロナ対策に対する評価から60%前後を維持していたが、7月に入ると50%を割り込んだ。不動産価格の高騰で文在寅政権の支援者層である30代が家を買うことが難しくなっているのだ。

 住宅供給を増やすと、不動産価格は安定するが、政府は供給不足を棚にあげて、高騰原因を投機目的の不動産所有に転嫁する。
 公務員が率先して1軒のみ残して売却するよう指示を出したが、対象となる公務員は260人にすぎず、価格安定に影響するとは思えない。

 住宅政策の失態から一時的に目をそらす効果があると考えているようだ。

佐々木和義(ささき・かずよし)
広告プランナー。商業写真・映像制作会社を経て広告会社に転職し、住宅・不動産広告等のプランナー兼コピーライターを務めた。韓国に進出する食品会社の立上げを請け負い駐在員として2009年に渡韓。日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える必要性を感じ、2012年、広告制作会社PLUXの設立に参画し現在に至る。日系企業の韓国ビジネスをサポートする傍ら日本人の視点でソウル市に改善提案を行っている。韓国ソウル市在住。

週刊新潮WEB取材班

2020年7月11日掲載

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