ある意味の注目度ナンバー1「ごとうてるき」候補が最高裁まで戦った理由

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オムツ姿で訴える

 東京都知事選の事前の予想で、有力候補扱いすることはないものの、注目度ではかなり上位に食い組んだのが、トランスヒューマニスト党のごとうてるき(後藤輝樹)候補である。理由は政見放送があまりにも個性的だったからだ。

「世間がなんぼのもんじゃい。常識がなんぼのもんじゃい。NHKがなんぼのもんじゃーい」と第一声を発したのちに、後藤候補はオムツ一丁の姿に。政策を訴える前に、

「全裸が売りのアキラ100%がテレビに出られるのに、私の発言がカットされるのはおかしい」

「サザンオールスターズの『マンピーのG★SPOT』や玉袋筋太郎は許されるのに、私の発言がカットされるのはおかしい」

 時に歌を交えながら後藤候補はしきりに前回出馬時の政見放送の一部がカットされたことへの不満を口にする。そのインパクトは凡百の泡沫候補とは一線を画するものがあったと言えるだろう。

 しかし、これだけでは前回、何があったのかは少しわかりづらかったかもしれない。そこで、選挙マニアとして日々全国の選挙をウォッチしている宮澤暁さんの著書『ヤバい選挙』をもとに、後藤候補の「表現の自由」を巡る戦いの顛末を見てみよう(以下、引用はすべて同書より)

公職選挙法第150条の2

 通常の政見放送では、候補者名が青地に白で書かれた画面が移り、そこで経歴が読み上げられる。しかし、この時はそれ以外に「公職選挙法第150条の2の規定を踏まえて音声を一部削除しています」というテロップとナレーションも流された。

「第150条の2」とは以下のような内容である。

「他人若しくは他の政党その他の政治団体の名誉を傷つけ若しくは善良な風俗を害し又は特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をする等いやしくも政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない」

 ごく普通の常識を説いているようだが、実はこの法律が適用されたケースは極めて少ない。政見放送においては表現の自由を最大限に認めているため、過去には「田中角栄を殺したい」「(対立候補は)腹を切って死ぬべき」といった物騒な発言であっても、そのまま放送されている。

 最初にこの規定に違反したとして、発言がカットされたのは、雑民党の東郷健氏の参議院選挙での政見放送である。ここで東郷氏は、障害者に関して一般に差別用語とされる言葉を用いたため、NHKは当人の承諾なくカットしたうえで放送した。ピー音などは入れずに、その部分のみ無音という処理であった。

 これを不服に感じた東郷氏はその後、NHKと国を相手取って訴訟を起こす。そして一審では何と東郷氏の主張が認められたものの、最終的に最高裁まで争われ「カットは適法」ということになったのである。

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