プロ野球「無観客試合」は選手の士気に影響するか ホームアドバンテージの消滅も

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やはり“謎”のホームアドバンテージ

 ボストン・レッドソックスの本拠地、フェンウェイ・パークは左翼のフェンスが異常に高い。何と11・3メートルもあり、“グリーン・モンスター”というあだ名で知られている。

 ホームランを防ぐためだが、副作用もある。他球場ならレフトへの凡フライでも、グリーン・モンスターに当たって跳ね返るとヒットになる確率が上がる。そのため、こちらは右打者に有利と言われている。

「大リーグでは、もっと露骨な手も常態化しています。例えばロッカールームです。ホーム側は広くて快適なのに、アウェイのほうは狭くて居心地が悪いという具合です。日本の場合はホームの選手が本拠地の球場を熟知し、慣れていることが勝率に影響しているとの議論もあります。しかし、基本はホームもアウェイもほぼ同じ条件で戦います。データを分析する前、私たちはプロ野球でもホームアドバンテージの傾向が存在するとは予測していました。とはいえ、53・1%という明確な結果が出たのには、やはり驚きましたね」(同・菊池教授)

 論文では顕著な関連が見出されなかったとはいえ、やはり専門家の間では、「ホームアドバンテージはファンの応援が最大の原因」が大方の見方であるという。

「それ以外の要素は乏しい、と言っていいかもしれません。選手の心理面に着目すれば、ファンの声援は大きな後押しです。アドレナリンの分泌が盛んになり、士気が上がります。選手の1人1人が勝利への強い意思を持つことで、ホームチームの勝率が上昇するのです」(同)

 海外サッカーでは早くも、「無観客試合はホームアドンバンテージに影響を与える」との実例が報告されている。

 日刊スポーツ(電子版)は5月25日、「有利なホームの勝率激減 無観客で後押しなし影響か」との記事を配信した。記事の書き出しは、以下のような具合だ。

《無観客試合の影響か、16日に再開したブンデスリーガでは有利なはずのホームチームの勝率が大きく下がっている》

 勝率について具体的に言及した部分を、引用させていただく。

《再開後の18試合のホームチーム成績は3勝5分け10敗。その勝率(白星率=勝ち数÷試合数)は16・7%にとどまる》

《中断前までは今季通算224試合で97勝49分け78敗の勝率43・3%で、再開後のホーム勝率はおよそ27ポイント減となっているのだ》

 ホームアドバンテージが27%も減少してしまったという。衝撃的な数字と言っていいだろう。日本のプロ野球でも似た状況になるのだろうか。

「率直に申し上げて、何が起こるか、私たちにも分かりません。無観客試合における勝率は、ホームアドバンテージの研究を深める貴重なデータとなるかもしれませんし、『新型コロナの感染防止という特殊な状況下であり、データとして採用できない』と留保されるかもしれません。私たちもファンの皆さんと同じで、とにかく開幕が待ち遠しく、実際のゲームを観戦したくてたまらないというのが本音です」(同・菊池教授)

 菊池教授は「どれほど研究を重ねても、最後の最後で、ホームアドバンテージには“謎”が残ります」と指摘する。

「ホームアドバンテージは、勝率というデータから捉えられるものです。試合を行うほど、今後もデータの蓄積は増します。比例して解釈の精度も増すと考えられます。しかしながら、限界もあります。ファンの声援がホームの選手に力を与えているにしても、勝利に直結するとは限りません。士気が高くても0-1で惜敗することがあります。ファンの声援がプレッシャーになるケースもあるでしょう。アウェイチームの凡ミスで勝利することも珍しくありません。私たちが研究を重ねても、勝率とホームアドバンテージの間に100%の因果関係を立証するのは不可能なのです」

 菊池教授は「プロ野球に限らず、全てのスポーツは、やはり筋書きのないドラマなのです。だから私たちは夢中になるのです」と話す。

 読売新聞のコラムが、無観客試合によって「番狂わせは、減るかもしれない」と指摘したのは、前にご紹介した通りだ。

 さて、今年のプロ野球は、どんな結果になるか。

週刊新潮WEB取材班

2020年6月19日掲載

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