プロ野球「無観客試合」は選手の士気に影響するか ホームアドバンテージの消滅も

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日本にホームアドバンテージはあるか?

 ファンのいない無観客試合では、選手への声援も、審判の重圧もない。つまりホームアドバンテージが成立しない可能性があるのだ。コラムは今年のプロ野球について、次のように指摘した。

《観客を入れても、感染予防で座席間隔を空けるため満員に埋まる日は見通せない。ホームアドバンテージのないシーズン。スポーツの醍醐(だいご)味の一つでもある番狂わせは、減るかもしれない》

 1996年、「ホームアドバンテージ(Home Advantage)と観客要因に関する研究」という論文が発表された。

 筆者は原田尚幸、守能信次、原田宗彦、菊池秀夫の4氏。いずれもスポーツ経営学や体育学の専門家だ。

 彼らが分析の対象としたのは、1993年から95年のプロ野球とJリーグ。調査結果から論文は、日本におけるホームアドバンテージを以下のように結論づけた

《ホームゲームにおける勝率は、プロ野球が53・1%、Jリーグが59・9%となっており、どちらのプロスポーツにおいてもホームアドバンテージが認められる》

 日本におけるホームアドンバンテージ研究の嚆矢と言っていい論文は、《最も影響を及ぼす要因は、観客要因である》という海外の研究成果を紹介し、それを元に日本でのデータを分析した。

 ところが日本のプロ野球でもJリーグでも、ホームアドンバンテージと《観客要因(観客数、観客密度)との間に関連は認められなかった》という結果になってしまった。

《わが国のプロスポーツ(特にプロ野球)では、ホームチームとアウェイチームを応援する人が同じスタジアムの中に存在しており、欧米のホームゲームの応援風景とは異なる。分析にあたっては、このような文化的な違いも考慮する必要があると推察される》

 無観客試合は、ホームチームアドバンテージにどのような影響を与えるのか、執筆者の1人である中京大学の菊池秀夫教授(スポーツ経営学)に取材を依頼した。

 まず、どういう理由からプロ野球とJリーグにおけるホームアドンバンテージを調査し、論文を執筆しようと考えたのか訊いた。

「例えばアメリカでは、既にホームアドバンテージに関する論文は相当数が発表されていました。一方、90年代の日本では、まだ見当たりませんでした。私たちはスポーツ経営学が専門ですが、チーム経営の根幹を支える観客動員は、勝率にも左右されます。『日本でも本拠地が強いのか』は私たちも高い関心を持っていたので、海外の研究例を紹介し、日本の現状を調査することにしたのです」

 菊池教授によると、アメリカの大リーグでは、ホームアドバンテージが最大化するよう、日本とは比べものにならないほど、様々な“工夫”をこらしているという。

 日本にも伝わっているのは、球場の形だろう。例えばニューヨーク・ヤンキースの本拠地であるヤンキー・スタジアムは、左中間が極端に深く、右翼側は狭い。

 これは旧スタジアム(1923~2008)からの伝統で、ベーブ・ルース(1895~1948)を代表とする左打者を有利にするための設計だとされている。つまりヤンキースは左打者をずらりと並べれば、ホームアドバンテージの“補強”になるのだ。

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