「女房と一緒の時間を少しでも長く」 在宅介護にはどのくらいお金がかかるか──在宅で妻を介護するということ(第2回)

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61歳でも使える介護保険サービス

 千葉大病院からの転院要請があった時点で、私は「在宅で看よう」と腹を決めていた。こちらの希望((1)家から近い、(2)入院費が安い、(3)すぐに入れる)を満たす転移先がなかなか見つからないこともあったが、もう医療的処置は必要ないのだから、家に戻して在宅の介護サービスを受けようと考えたのだ。

 しかしこのとき、私は大変なことを忘れていた。当時、妻は60歳。介護保険のサービスが受けられるのは、介護が必要となった高齢者、すなわち65歳以上を指す。ということは、家に戻したところで「訪問介護(ホームヘルプ)」「訪問看護」「通所介護(デイサービス)」「訪問入浴」といったサービスを利用できない。実に初歩的なことだが、この大前提をどこかに置いたまま自分の都合の良いように考えていたのだ。

 介護保険が使えなければ家で看ることなどできない。万事休す。一瞬、目の前が真っ暗になった。だがここで、10余年間のこの分野における取材経験が役立った。「末期がんの人は65歳にならなくても介護サービスを利用できる」といった話を、どこかで聞いたことがあったのだ。

 早速、役所に出向き、カウンターに積んである「ハートページ(介護サービス事業者ガイドブック)」を開いてみると、やはりありました。「特定疾病」という例外が。「40歳から64歳までの人でも、特定疾病が原因で介護が必要になった場合はサービスが受けられる」のだ。

 ここでいう特定疾病とは、「加齢との関係がある疾病か、要介護状態になる可能性が高い疾病」とある。具体的にはがん末期、関節リウマチ、筋委縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病など16疾病が指定されている。多くは難病と言われる病だが、なかには「初老期における認知症」「脳血管疾患(外傷によるものを除く)」「脊柱管狭窄症」といったよく聞く病気もある。もはやこれに懸けるしかなかった。

 さて、家内の病気だが、持病としては糖尿病があり、精神的には20年来の統合失調症があり、これらの症状がアルコール依存症によってさらに拍車がかかり、最終的には酒の飲み過ぎで胃袋に穴が開いて緊急入院した。手術後のMRI検査では認知症特有の脳の萎縮も見られた。「ウェルニッケ脳症(ビタミンB1が不足することから引き起こされる神経系の急性疾患)」の病名がついたが、いろんな病気が複雑にからみあって四肢が動かなくなっていたのである。

 主治医もどう病気を特定していいか悩んでいたし、それゆえ治療法もコレという決定打が見出だせず、ただ入院期間だけが延びていったのであった。

 結局、千葉大病院には66日(急性期病院の入院期間は20日が限度といわれる)もお世話になった。しかし、介護保険申請においてはこれが幸いした。いろいろ検査したなかで、腎臓の数値が特定疾病の中の「糖尿病性腎症」に該当するという診断が立ち、介護保険受給の対象となったのである。

 だから、年令が65歳未満だからといって簡単にあきらめてはいけないのだ。前述したようにがんなら40歳からありだ。これで在宅介護への道は完全に開けた。

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