コロナ禍だから行かずに済ませる「フランスのバスク」で食べ飲み歩きガイド

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自然と調和した葡萄畑

 今は旅行なんてもってのほかだけど、その昔小沢健二が歌っていたように、「僕らの住むこの世界には旅に出る理由があり……」。どんなにテクノロジーが進化しようが、ヴァーチャルな旅で人は満足できない。もちろん今すぐというのは無理でも旅は出かける前から始まっている。今回取り上げるのは、フランスのバスク地方!

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 ガイド本やネットで下調べする時間も楽しいものです。旅行業界の回し者ではありませんが、今回は自分自身の経験から是非行って欲しいワイン産地への旅の提案です。正直ワインの産地って、ワインが好きじゃない人にはたいして面白くないだろうなと感じるところも少なからずあります。もっとも、そういう方が訪れたとしてもいい旅行となるような、そんなところを選んでいますので、ワインに興味がない方も読んで妄想を膨らませていただけたらと思います。

 仕事柄というのもありますが取り敢えず現地に行ってみようと思う自身の性格から、フランスのワイン産地は至る所を訪れました。生まれた時代が時代なだけに、戦乱で荒れ果てた葡萄畑も、フィロキセラ(葡萄樹の病気)により枯れた樹しか残っていない無残な姿も見たことがありません。

 今では、葡萄樹が整然と植えられきちんと手入れされた畑しか見ることができない。でも長い歴史の中でヨーロッパは、フランスに限らずいろいろなところで領土の奪い合いが起きていた。その都度、大切に育てられた畑は荒廃し、中にはついに諦めその畑を捨て土地を離れていく人も多くいたわけです。今回ご紹介するバスク地方もその一つ。バスクということで、世界中から観光客が集まる美食の街サン・セバスチャンをイメージした方、どうもすみません。バスクといってもピレネー山脈を挟んだ逆側。フランスのバスクです。

 星付きレストランがいくつもあって派手な印象のスペインのバスクより面積も小さく、また現状では人気も劣るフランスのバスクですが、その分バスク古来の文化や風習により近づけるという良さがあるのではと思っています。確かにフランス側には王侯貴族が夏のヴァカンスに訪れていたビアリッツという有名な高級リゾート地があるにはあるのですが、貴方がよほどビーチが好きかサーフィンLoveじゃない限りビアリッツで過ごす時間は最小限でもいいのでは。ちょっと寄って『聖母の岩』を見るついでの散歩でも十分だと思います。波に乗ったり砂浜に寝そべったりするのもいいとは思いますが、それはバスク以外でも経験できる。バスクで大きな街に行くならちょっと地味だけどバイヨンヌの方が文化的な香りが楽しめる気がします。

 さて、この地にはイルレギという原産地名称を名乗れる小さなワイン産地があるのですが、ここもまた度重なる戦禍とフィロキセラにより葡萄栽培面積が激減してしまったエリアの一つです。さらに言えば、他のワイン産地と違いその後も葡萄栽培がなかなか復活しなかったエリアでもあります。第2次世界大戦後 少しずつ栽培面積が回復したとはいえ現在でもイルレギという村周辺の15の村でたった200ヘクタールほどしか葡萄畑がありません。

 200ヘクタールといってもピンときませんよね。できるだけ分かりやすい例を出すと……たとえば有名なジュヴレ・シャンベルタンはブロション村とジュヴレ村の2つの村からなり葡萄畑の面積が400ヘクタール強ありますので、その半分以下ということです。これまた分かり難い? とにかく、イルレギの栽培面積は15もの村にまたがっているのに2つの村だけのジュヴレ・シャンベルタンの半分しかない。極めて細々としたワイン産地ということです。

 ただ、それこそがバスクの誇る田園風景なわけです。ブルゴーニュのように葡萄畑が連なっていない。山や森と家畜の放牧地やその他の作物の畑とブドウ畑がモザイク模様のように美しく広がっています。モノカルチャーとなってしまった現代の多くのワイン産地。それとは対局ともいえる自然と調和した葡萄畑がそこにはあるのです。その景色はとてものどかで美しく、大地と空とバスクの人々のささやかな営みが織りなす他では経験し得ないハーモニーとなっているのです。

 またイルレギは僅か200ヘクタールの内75%にあたる150ヘクタールが協同組合の畑。そのため個人で丁寧に畑の世話をして丹精込めてワインを造っている人は非常に少ないという、これまた特殊な産地でもあります。もちろん協同組合イコール低品質ということではありませんが、やはり卓越した技術を持つ職人は互助会的なものに与することなく我が道をゆくもの。そういう事情もありイルレギは辺鄙な場所の小さな無名のワイン産地ということで長く日が当たらないエリアだったのです。が、そんなマイナーなこの地も1つの生産者の登場により徐々に状況が変わってきています。

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