「ジャイアント馬場」「具志堅用高」夫人ら…格闘技界に女帝・女傑が君臨しやすいワケ

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『あしたのジョー』白木葉子もまた…

 フィクションの話になるが、ボクシング漫画不朽の名作『あしたのジョー』のヒロインである財閥令嬢の白木葉子も、よくよく思い返せば、ボクシングジムのオーナーにしてプロモーターという役どころである。原作を担った梶原一騎の脳裏に、イートン夫人や長野女史の存在がよぎった蓋然性は高いのかもしれない。

 具志堅夫人が偉大な先達を意識したかどうかまでは定かではないが、女性の意見が存外採用されやすいビジネスであるのは言うまでもなく、今回の件もそのことが根底にあることは否定できない。イートン夫人も長野女史も、敵が少ないわけではなかったし、批判されることも多々あったからだ。

 ここまで述べてきて思うことだが、ボクシングに限らず、格闘系のマネージメントとは、もはや「女性の職種」なのかもしれない。そもそも、大相撲がそうである。相撲部屋において、女将がいないと成立しない構造になっていることは、誰もがよく知る事実だろう。

 その上、具志堅夫人など話にならないくらいの「悪女」や「悪妻」の存在さえも、実のところ枚挙に暇がない。

 となれば、故ジャイアント馬場夫人として、往年の全日本プロレスに君臨した故馬場元子夫人に触れねばならない。

 明石市の旧家に生まれた彼女は、巨人軍の馬場正平投手と知り合い、交際に発展する。二人の関係は馬場がプロレスに転向してからも続いた。長年「ミセスババ」と呼ばれた彼女も、もともと、経営のプロだったわけでなければ、特別な才覚があったということでもない。

 しかし、1973年にジャイアント馬場が所属団体から独立し、全日本プロレスを起業すると、元子夫人の存在感はにわかに増していく。現場への指示は当然のことながら、興行全般や選手の振舞いに対する注意、マスコミ対応と、その言動はすべてに行き渡った。

 それどころか、グッズ関連の別会社を立ち上げると、選手にロイヤリティーを支払わず、収入を一手に計上したという話もある。選手間で不満が高まったことは想像できるし、実際、彼女のことが嫌いで廃業の道を選んだ選手も多かったとも聞く。

 しかし、少なくとも、夫であるジャイアント馬場が健在のうちは、会社が激震に見舞われることはなかった。実態はともかくとしても、傍目には安泰に映った。元子夫人の下支えを評価するマスコミも、思いのほか多いのも事実だった。

 ライバル団体であるアントニオ猪木率いる新日本プロレスが、側近を男性で固めたことで、嫉妬の感情からくる対立や妨害が横行し、結果として内紛が頻出、度重なる分裂に苛まれたのと好対照である。

 とにもかくにも、悪妻としてマスコミに採り上げられた具志堅夫人は、いっそこの機会に、「私が世界チャンピオンを作ります」くらい宣言してみてはどうか。無責任なことを言うようだが、悪名は無名に勝るのだし、悪妻が悪手を打つとは限らないのだから。

 面識のない人のことを高く買うわけにもいくまいが、案外、「和製イートン夫人」の名をほしいままにする日が来るような気がしないでもない。そう思う次第である。

細田昌志
著述業。鳥取県出身。CS放送「サムライTV」でキャスターをつとめたのち、放送作家に転身。その後、雑誌、WEB等に寄稿。著書に『坂本龍馬はいなかった』(彩図社)『ミュージシャンはなぜ糟糠の妻を捨てるのか』(イースト新書)がある。現在、メールマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」にて「プロモーター・野口修評伝」連載中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月6日掲載

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