コロナの日本人死亡率はなぜ低い 習慣? 人種? “ファクターX”に迫る

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「HLAの差」

 果たしてそうした解説だけで「ファクターX」が説明できるのか。

 アメリカ全国保健統計センターが人種別の死亡率を公表している。

 医療ジャーナリストによれば、

「アメリカの新型コロナウイルスの流行地域におけるアジア系住民の比率は全人種の11・5%。対して、アジア系住民の死亡率はその半分の5・8%です。アメリカ在住ゆえ生活様式は日本とは異なるはずなのに、アジア系の死亡率は低く抑えられています」

 やはり、人種による差異も存在するのではないか。

 最近になって、日本の死者数の低さを遺伝子解析によって解明しようと、研究グループが作られている。京都大、慶応大、大阪大など八つの研究機関を中心にしたプロジェクトで、医療機関から同意を得た患者計600人の血液を採取し、ゲノム(全遺伝情報)を解析するというものだ。

「日本の死者数が約800人(取材当時)というのは何らかの遺伝学的な事情があるのでは、と考えられます」

 と、研究グループを代表して語るのは慶応大学医学部の金井隆典教授だ。

「長い人類の歴史の中で、ホモサピエンスはウイルスに簡単には負けない仕組みを作り出し、それが人種間に“多様性”として表れてきました。日本人は新型コロナウイルスに抵抗力を持つ遺伝子を獲得しているのでは、という仮説を立てることも可能なのです」

 そこで着目しているのは、

「人種間の差がよく出るとされるHLA(ヒト白血球抗原)です。HLAとは簡単に言うと、白血球の血液型。ただし、一般的なA、B、Oの血液型よりもはるかに複雑に分類されており、骨髄移植でこの型がかけ離れていると拒絶反応が起こります」(同)

 このHLAの働きについては、こう続ける。

「医学生にも難解なのですが、HLAを白血球のためのお椀と考えるとわかりやすい。体内に侵入したウイルスの断片がHLAというお椀に載せられると、そのウイルスを認識し、白血球が攻撃します。ただ、同じウイルスでもそのお椀の型が異なると、白血球の働きに違いが生まれる。新型コロナウイルスにおいて、人種によって重症化リスクに違いがあるとするなら、免疫の働きの差であり、HLAの差ではないかと仮定することができるのです。ただし、HLA以外にも免疫に関わる遺伝子の相違を考慮しなくてはなりませんので、ホールゲノム、すべての遺伝子を解読する研究となっています。結果の第一報は9月くらいには出したいと思っています」

 ジャパン・パラドックスともいわれる日本の死亡者数の低さ。研究の端緒は開かれたばかりだ。

週刊新潮 2020年6月4日号掲載

特集「『コロナ』闇の奥」より

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