妻の下の世話は意外と苦にならなかった 在宅で妻を介護するということ──在宅で妻を介護するということ(第1回)

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意外と楽しい「下の世話」

 私は、2018年暮れに在宅介護生活に入り今も継続中である。1年半という短い期間ではあるが、ここまでの総括を口にすれば、「思っていた通り。在宅にしてよかった」になる。やせ我慢をしているのではなく、本当にそう思うのだ。では、いくつか証拠を挙げてみたい。

 ひと昔前までは、脳梗塞や脳出血の後遺症で半身不随となったご主人を奥さんが看るパターンが多かった。車いすを押す奥さんの背中が、「人の言うこと聞かないで、好きなだけ飲んで、挙句はこのざまです」と語っていた。しかし今日、夫が在宅で妻を介護するのは決して珍しいことではない。私たちの場合、世の介護年齢より15年も若いことを除けばよくある話である。

 そこで、週に1回(開始から1年間は週2回)来てくれる訪問看護師に、「夫婦2人暮らしで、旦那が奥さんを看ているケースはどのくらいある?」と尋ねたところ、「最近は増えてきましたよ。3割くらい、いやもしかしたら4割近いかも」という返事だった。

 さて、自分の老後設計の中に全くなかった妻の介護を、自分が主たる介護者となって、しかも「家」で看るはめになった夫が一番困るのは何だろうか。多くの人が「下の世話」と答えるだろう。

 排泄の介助は介護の本丸であり、特に妻のように寝たきりの人を介護する場合、朝・昼・就寝前と最低3回のおむつ交換が必要といわれる。実をいうと、私も当初、最大の難関は下の世話だと考えていた。薄いプラスチックの手袋をはめているとはいえ、股間にこびりついたウンコをティッシュで掬いとり、陰部をぬるま湯で洗浄するなんて荒業が果たして自分にできるのだろうか──。それ以前に、「男たるもの女房の下の世話などできるか」とケツをまくる日本男児も少なくないと思う。

 結論から言おう。つらいというより面白かった。子どものいない私にとって、おむつ交換は人生初の体験だったが、汚いとか臭いという嫌悪の感情は不思議と湧いてこなかった。それよりも、「尿とりパッドに堆積した便を、いかにしておむつに触れずに回収できるか」とか、「ティッシュやお尻ふきの使用を最小枚数にとどめ、最後におむつを固定するテープを左右同じ長さにかっこよく留められるか」といった技術的課題に、やりがいを見出してしまったのである。これは私自身思いもよらなかった。

 もちろん疲れているとき、酒が入ったときなどは億劫になり、パスすることもあった。しかし、1日3回くらい(今は2回)ならさほど苦痛にならなかった。「在宅」をここまで続けてこれた要因の一つかもしれない。

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