誰が「木村花さん」を殺したか コスチューム事件も?演出が招いた悲劇

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ヒール役に徹する姿

 テレビ朝日で報道番組の制作などに携わり、現在はフリーのプロデューサーとして上智大文学部新聞学科非常勤講師も務める、鎮目(しずめ)博道氏が解説する。

「現場では出演者同士の絡みを見て、スタッフたちが『こんな展開になったら面白いね』といった感じで誘導していく。皆で展開を作って盛り上げるので、やっぱりフェイクじゃないかと思われるかもしれません」

 とはいえ、単純に作り話と断言もできないそうだ。

「キャラクター設定は出演者の性格に基づいていますし、若い男女が一緒にいれば実際に恋愛関係に発展することもあります。自然な恋愛をしているわけではないけど、そこに台本があるわけでもない。リアルとフェイクの間を行ったり来たりするショーなのです」

 目の肥えたファンが、そうした演出を前提に楽しんできたというわけだが、近年は事情が変わってきたと鎮目氏は指摘する。

「若者のテレビ離れが叫ばれて久しい中、『テラスハウス』の成功で同種の番組は次々とヒットしています。今や普通のかっこいい男女が恋愛するだけでは新鮮味がなく、出演者のキツイ性格を過剰に煽り、物議を醸す言動をさせて話題を集める傾向があります」

 それを不快に感じる視聴者の怒りは、出演者のSNSに向かってしまう。

「出演者の若者たちは、個人のSNSを使って番組の宣伝をさせられているため、視聴者からの批判を直に受ける。あくまで番組の演出に協力している個人への批判を、すべて自己責任とばかりに負わせている構図が、今回の悲劇を生んだ要因になっていると思います」(同)

 花さんはレスラーだけに、ヒール役に徹する姿は真に迫る。演出に従い盛り上げれば盛り上げるほど、余計にネット民たちの格好の餌食となってしまったのか。

 ネットニュース編集者の中川淳一郎氏に言わせれば、

「不特定多数が利用するSNSは公の場であって、そこでの誹謗中傷コメントは、一人でテレビを観ながら悪口を呟くのとはわけが違う。本人に面と向かって言えないことは書いてはいけない。そんな小学校の道徳レベルのことが分からないバカに、意見できる場を提供してしまったネットは罪つくり」

 そう断じた上で、こんな懸念も口にする。

「誹謗中傷した人たちは、誰よりも番組への愛が強かったんでしょうけど、そんな彼らにとって一番嫌なのは番組がなくなることではないでしょうか。この一件で『テラスハウス』は打ち切りになる可能性もあるし、恐らくテレビ業界は演出を自主規制していくでしょう。一部のバカのせいで制作サイドは萎縮し、表現の幅が狭められてコンテンツの質は下がり、多くの人が不利益を被る。日本の社会はバカ者に対して払うコストが大きすぎます」

 そもそも全てはテレビカメラが回る前で行われていること。そういうものだと割り切って楽しむべきところ、今なおSNSには不毛な罵言が溢れているのだ。

週刊新潮 2020年6月4日号掲載

特集「誰が『美人女子プロレスラー』を殺したか テレビのシナリオとSNSが招いた悲劇」より

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