文在寅、“公正な採用を”と指摘「アイドルオーディション番組」が就職先になる絶望の韓国

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日本版も作られた番組プロデューサーの犯罪から

 韓国はいまだに賄賂や不正がまかり通る社会だ。その背景には、「超勝ち組以外は全部負け組」という苛烈な競争社会が横たわっている。競う場は収入や学歴だけではない。アイドルオーディション番組でさえ有力な就職先になり、それが国会でも取り上げられたというのだ。

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 5月29日、韓国・ソウル中央地裁で開かれていた注目の裁判で判決が言い渡された。被告人は詐欺などの疑いで逮捕されていたテレビ番組「PRODUCE X 101」の制作プロデューサーら。2019年には、ナインティナインの司会で、TBSが〝日本版〟を製作するにいたった人気番組だ。

 韓国の音楽専門チャンネル「Mnet」が製作したPRODUCE 101」は、2016年にシーズン1を放送。さまざまな芸能事務所に所属する101人の練習生が〝サバイバルオーディション〟に参加し、最終的に勝ち残った11人がアイドルグループ「I.O.I」としてデビュー。アジアを中心に世界的な人気を博し、2019年5月から7月まで放送された「PRODUCE X 101」はシリーズの第4弾だった。

 韓国の芸能記者に解説してもらうと、

「韓国には『SMエンターテインメント』『YGエンターテインメント』『JYPエンターテインメント』と大手の芸能事務所が3つある。『SM』には東方神起、『YG』にはBIGBANG、『JYP』にはTWICEらが所属しています。『PRODUCE101』が成功したのは、これら大手3社の事務所に所属しなくとも、トップアイドルとしてデビューできるかもしれないという期待感があったからです」

 裏返せば、韓国芸能界において、この「ビッグ3」のカベは高く険しいものだということになる。

 ともあれ、話を戻すと、オーディションは視聴者による投票で行われ、有料メールに登録すれば、自分の〝推しメン〟に投票することができる。コネによる不正が横行してきた韓国では、この一見公平でクリーンな芸能オーディションが人気を博するのは当然の成り行きだったといえよう。しかし……。

「案の定、不正は行われていたわけです(笑)。有料メールの会員を募って投票させたにもかかわらず、オーディション結果はプロデューサーらによって操作されていた。これによりプロデューサーらは詐欺罪で逮捕・起訴されるに至ったのです」

 オーディション番組で不正――。いいオトナならと言うか子どもでも、〝どうせそんなもんでしょ〟とマトモに取り合うこともないのだろうが、そこは〝情緒の国・韓国〟だから一筋縄で行かず、面倒な展開へと発展することになった。

「この問題は、なんと国会で審議されることになったんです。昨年11月には、国会議員が『PRODUCEX 101国民監視法』なる法案を発議。放送したテレビ局『Mnet』の放送をチェックする機関の設置を提案したのです」

 ヤラセでプロデューサーが逮捕され、さらに国権の最高機関が大真面目に議論する。そういった韓国のやり方はかなり奇異に映るが、背景には「格差社会」と「就職難」という韓国独特の社会事情が存在しているのだという。

「韓国は財閥企業や大手企業が幅を利かせる格差社会。大手企業に就職できなければ負け組で、一流大学を卒業した大学生が大手に就職できず、役所の高卒採用を受験するなんてこともあるんです。親たちは子どもを大手に就職させるため幼少期から教育投資を惜しまず、子どもも疲弊していく。そんな状況の中で、アイドルオーディション番組までもが〝有力な就職先〟と取り沙汰されるようになってしまった」

 一流大卒でも役所の高卒枠受験で……とは目を疑うばかりだ。

「アイドルオーディション番組で成功者に成り上がれるのは、ラクダが針の穴を通るよりも難しいと分かっているのですが、それでも大手企業に就職するよりは簡単なのではと期待を抱いてしまう。そこで、少しでも容姿が良い子どもには大枚をはたいてダンスレッスンやボイストレーニングを受けさせ、アイドルにならせたいと思う親が増えているのです」

 実際、この騒動を受けて文在寅大統領は、こう発言したのだった。

《採用の公正を確立することが若者たちの切実な願いだ。公正な採用文化が社会全体に浸透するようにしなければならない》

 これを受け、新聞やテレビも〝不公平な採用〟という切り口で報道している。アイドルオーディションすら就職活動……。知れば知るほど不思議なお国柄である。

週刊新潮WEB取材班

2020年5月31日掲載

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