朝ドラ「エール」が名作になる予感 業界通が解説する“これだけの根拠”

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 NHKの朝ドラ第102作「エール」が、5月に入って勢いを増している。週平均の視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区:以下同)で見ても、4月期は19%台だったが、5月に入ると20%を下回ることはなくなった。物語は、これからまさに名曲の数々が生み出されることに。業界関係者は早くも「名作と呼ばれる作品になるかもしれない」と予言する。

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 昭和の音楽史を代表する作曲家・古関裕而(窪田正孝)と、歌手としても活躍した妻・古関金子(二階堂ふみ)をモデルに、激動の昭和を描くのが「エール」だ。古関氏の出身が東日本大震災で甚大な被害受けた福島で、震災から10年を迎えた節目であるということ、今年がオリンピックイヤーであることから、1964年開催の東京オリンピックの開会式で使用された「オリンピック・マーチ」の作曲者である彼に白羽の矢が立った。

 だが、前評判はそれほど高くなかった。昨年9月にクランクインしたものの、11月には異例の脚本家の途中交代を発表。先行きが案じられていたからだ。

 さらに第1話の放送前日、3月29日に出演者の一人であった志村けんさんがコロナ感染により死去。放送当日の30日には、東京オリンピックの延期も決定した。4月1日からは撮影も中断された。民放プロデューサーが語る。

「放送が始まる頃には、日本はコロナ禍で大騒ぎでした。志村さんが亡くなり、コロナの恐ろしさが再認識され、オリンピックの延期も決まった。もはや朝ドラどころではなくなっていました。初回こそ21・2%でしたが、週末には18・5%にまで落ちました。しかし、最近は21%台を連発しており、週平均もさらに上がるでしょう。まさに右肩上がりで、長期ドラマでは非常にいい傾向だと思います」

 なぜ5月に入って良くなったのだろうか。

「コロナで在宅率が高いこともあるでしょうが、ドラマがつまらなければ、視聴者はすぐに去って行きます。ちゃんと見ることで、質のよさ、面白さが伝わっているのだと思います。また、志村さんが初登場したのが5月1日だったのも大きい」(同)

 志村さんの初出演は、窪田とも二階堂とも絡むことはなかったが、業界の重鎮(山田耕筰がモデル)として貫禄たっぷりで登場したところで終わった。

「この日の朝ドラ受け『あさイチ』では、司会の近江友里恵アナの“『あさイチ』です”という第一声から涙声で始まりましたからね。もちろん、リモート出演の華丸大吉は笑いに変えていましたけど」(同)

華丸:あの名曲、「東村山音頭」を作られた方……。

大吉:違いますよ。そこはリンクしてきませんよ。待っても“イッチョメ、イッチョメ”は言わないと思います。

 さすがである。おかげで番組は湿っぽくならずに済んだ。

ドラマに名曲の数々を

「志村さんはもちろん、主演の2人もいい。窪田は朝ドラでは『ゲゲゲの女房』、大河では『平清盛』にも出演しており、NHKの信頼も厚いのでしょう。民放でも最近は、『アンナチュラル』(TBS)、『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』(フジテレビ)などにも出演しており、共演女優を輝かせる俳優です。超イケメンとは言えないものの、親しみやすく、母性本能をくすぐるタイプ。演技も、上手いを通り越して、とにかく自然で、朝のお茶の間にもいつの間にか溶け込んでいます」(同)

 確かに今は、大手レコード会社の専属作曲家にはなったものの、ヒット曲をなかなか生み出せず、ひ弱さを前面に打ち出しているのだが、それも自然だ。

「そして、妻を演じる二階堂ふみも、演技力は折り紙付きですからね。12年の映画『ヒミズ』(園子温監督)は、ヴェネツィア国際映画祭に出品され、最優秀新人賞を獲得。昨年公開された『翔んで埼玉』(武内英樹監督)ではコメディエンヌも演じて見せました。大河では『平清盛』で窪田と共演、『西郷どん』では西郷役の鈴木亮平から“感性のバケモノ”と評されていました。今回の朝ドラ・ヒロインはオーディションでしたが、他の役者たちは二階堂がいるのを見て怖じ気づいたんじゃないでしょうか」(同)

 脇を固める人々も、音楽関係者が多く安心できるという。

「音楽ドラマの一面がありますからね。山崎育三郎や小南満佑子などミュージカル歌手がいれば、ライバル作曲家にはRADWIMPSの野田洋次郎も出演。音楽好きにも楽しめるキャステシングとなっています。また、三浦環がモデルの世界的オペラ歌手を演じる柴咲コウは、元々歌がうまいのですが、オペラを地声で熱唱するなど、見応えがありました」(同)

 15日放送では、志村さんと窪田との顔合わせが済み、いよいよ本気で作曲に取り組み始めるというところだった。

「これから、ようやく古関さんの“偉業”が見られるわけです。15日のラストでは早稲田大学の応援部が大挙して自宅に押し寄せてきたところから見て、早大応援歌『紺碧の空』が作曲されるのでしょう。古関さんといえば、40代後半位の人は、萩本欽一さん司会の『オールスター家族対抗歌合戦』(フジ)の審査員という認識しかないかもしれません。好々爺然として審査員席でニコニコ歌を聴いているという印象でしょうが、もっと上の世代の人にとっては、巨大なるメロディメーカーでした。戦前、戦中は軍歌、国民歌謡などを作り、戦後は大ヒットしたラジオドラマ『君の名は』の主題曲、鎮魂歌である『長崎の鐘』、『イヨマンテの夜』といった大ヒット曲もある。さらに、阪神の『六甲颪(おろし)』、巨人の球団歌である『野球の王者』と『闘魂こめて』、中日の初代球団歌『青雲たかく』、さらに夏の甲子園の大会『栄冠は君に輝く』もそう。聞けば絶対に分かるNHKの『スポーツショー行進曲』も彼に手になります。怪獣映画『モスラ』(61年)でザ・ピーナッツが歌った『モスラの歌』もそうで、あれも?これも?と思うほど知られた曲が多いのです」(同)

 それらが『エール』で聞けるならば、視聴者の楽しみはさらに増すはずである。

「窪田が演じているのは古山裕一で、古関裕而ではない。ですから、作品をどう出してくるかに、今後の成功がかかっていると思います。東京五輪の延期どころか、今年のプロ野球も開幕が協議されている状態で、当面は無観客でしょう。夏の甲子園も開催が危ぶまれている今だからこそ、視聴者を奮い立たせる古関さんの“エール”を朝ドラで再現すべきです。もっとも、6月末からは『エール』の放送が中断されるようですが」(同)

 ドラマのストックがないというなら、古関氏の曲が使用された名場面を放送してはいかが?

週刊新潮WEB取材班

2020年5月19日掲載

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