コロナ禍で激変のCM事情 “巣ごもり需要”で出稿量を増やした企業は?

ビジネス 企業・業界 2020年5月17日掲載

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 CMは社会を写す鏡だ。春めいてくると、新入社員向けのスーツのCMが目立つようになり、夏休み前にはレジャー関連のCMが増える。もっとも、それは新型コロナ禍に見舞われる前の話。今、CM事情は急変している。CMを凝視すると、日本経済の実相が浮かび上がる。

 この3月、最も多く流れたCMは何かというと、企業のものではなく、ACジャパン(ビデオリサーチコムハウス調べ、関東地区、以下同)。その数、1783本に達した。4月も2000本を超えており、2カ月連続でのトップは確実だ。

 どうしてACジャパンのCMが大量に流れているかというと、スポンサーである企業の都合によって、あらかじめ用意してあった本来のCMが、ACジャパンのCMに差し替えられているから。あくまで企業側の都合なので、民放には基本的に通常どおりのCM料金が入る。

 東日本大震災後もACジャパンのCMが大量に流れた。理由の大半は自粛。未曾有の大災害によって多くの同胞が嘆き悲しんでいる中で、商品などをPRしたら反感を買うと判断した企業が多かった。

 だが、今回は事情が異なる。一部には自粛している企業もあるものの、多くがCMを流せなくなった。

 例えば東京ディズニーリゾートのCM。政府による小中高等学校への休校要請から2日後の2月29日以降、臨時休園しているのだから、CMを流すわけにはいかない。ほかにも航空、観光、スポーツジムなど流せなくなったCMは数多い。

 4月以降はACジャパンのCMすら流せないこともある。民放側が売るはずのCM枠を、どの企業も買わないからだ。

 その空白の時間帯に流れるのは、民放が運営する公式テレビポータルサイト「TVer(ティーバー)」、民放連による放送番組の違法配信撲滅キャンペーン「違法だよ!あげるくん」の各CMと番組宣伝。いずれも自己PRなので、各民放の売り上げにはならない。

 このところ番宣や「TVer」、「あげるくん」の各CMが目につくようになったが、それは新型コロナ禍と4月7日からの緊急事態宣言によって企業がCM出稿を手控えているためである。民放にとっては由々しき事態なのだ。

 以下、3月のCMの放送回数ベスト20である(注・銘柄別)。ランクインしている企業は新型コロナ禍の影響を最小限に食い止められていると見ていいだろう。

1 ACジャパン 1783本 2月比706・7%
2 インディード 1771本 同137・2%
3 マクドナルド 1389本 同102・9%
4 リクルートライフスタイル じゃらん製品 1144本 同239・8%
5 リクルートライフスタイル 923本 同194・4%
6 龍角散ダイレクトスティック 821本 同296・4%
7 リクルートマーケティングパートナーズ スタディサプリ 818本 同489・8%
8 進研ゼミ 802本 同76・4%
9 ニトリ 797本 同84・6%
10 コーワ ザガードコーワ整腸錠α3+ 751本 同119・6%
11 ソニー損害保険 自動車保険 742本 同165・3%
12 ユニクロ 702本 同166・7%
13 コーワ キューピーコーワαドリンク 700本 同173・7%
14 コーワ バンテリンパットEX 670本 同13400%
15 NTTドコモ 650本 同121・1%
16 JXTGエネルギー ENEOSでんき 同649本 536・4本
17 コカコーラ ファンタ 640本 ――
18 JR東日本 えきねっと 618本 ――
19 ソフトバンク Softbank Air 612本 同529・5%
20 ソフトバンク メリハリプラン 599本 ――

 ACジャパンの2月比706・7%が目を引く。その分、流れなかった企業のCM
がある。

 外食チェーン店の多くがCMを減らす中、2月から微増したのがマクドナルド。ドライブスルーやデリバリーを活用し、「おうちマック」を呼び掛け、気を吐いている。

 CMも功を奏したのか、4月度の既存店売上高は、前年同月比6・5%増(日本マクドナルドホールディングス) 。営業時間の短縮など厳しい環境の中、「炙り醤油風 ダブル肉厚ビーフ」などの新メニューが当たった。

 政府が小中高等学校に休校を要請した2月27日以降、出稿量が急伸したのが、インターネットを使った塾と予備校のスタディサプリ。授業がなくなり、塾も自粛する中、不安になった親や本人が格好のターゲットになったのだろう。

 整腸錠などコーワの医薬品も伸びている。新型コロナ禍の有無に関わらず、医薬品のニーズは不変であるようだ。

 次に新型コロナへの危機感が乏しかった2月の出稿量ベスト20(注・銘柄別)も見てみたい。

1 リクルート 住まいカンパニー SUUMO製品
2 マクドナルド
3 インディード インディード
4 進研ゼミ
5 ニトリ
6 オープンドア トラベルコ
7 ホンダ フィット製品
8 久光 アレグラFX
9 ソフトバンク ウルトラギガモンスター+
10 東京電力
11 アパホテル
12 エスエス製薬 アレジオン20
13 コーワ ザガードコーワ整腸錠α3+
14 ソフトバンク ワイモバイル ワイモバ学割
15 東京ディズニーシー
16 明治 プロビオヨーグルトR-1
17 ハウス食品グループ
18 TISインテックグループ
19 日本宝くじ協会 東京2020協賛ジャンボ
20 NTTドコモ 料金プラン案内

 2月はホンダが7位に入っているものの、3月はベスト20に自動車会社が1社もない。1999年3月と比べ、大幅にCMが減った。3月、自動車業界は新型コロナ対策のための生産調整に入っており、それが一番の理由と見られる。また、緊急事態宣言後はディーラーが時短営業を行っているため、4月以降も車のCMは少ない。

 2月の6位から3月は20位圏外へと消えたのが、株式会社オープンドアのトラベルコ。国内外旅行の比較サイトだ。理由は説明するまでもないだろう。国内外とも旅行客が激減している。

 ゴールデンウィーク中(4月29日~5月6日)の日本航空と全日空の国際線利用者数の合計は前年比98.2%減の僅か8621人。国内線も同様で、両社ともに前年より95%以上減った。

 2月は東京ディズニーシーが15位だった。春休みやゴールデンウィークに訪れることを楽しみにしていた人は無数にいるだろう。

 一方、20位圏外ではあるものの、1月から3月のCM出稿量で伸びが大きかったのが、ウーバーイーツ(フードデリバリー)などを展開するウーバー・テクノロジーズ、KINTO(トヨタによる車の月額定額制の利用サービス)、ゼクシィ相談カウンターを展開しているリクルートゼクシィなび、などである。

 外出自粛の中、ウーバーイーツのサービスは利用者が増えているし、新型コロナ禍に襲われようが結婚するカップルの数に大きな変化はないということなのだろう。

 今後のCM出稿量はどうなるのか? 営業畑も経験した元民放役員はこう読む。

「本来なら清涼飲料水のCMが伸び始める時期だが、今年は分からない。緊急事態宣言の解除後も、海や山へ出掛けるのを控える人が増えることが見込まれるからだ。酒は家飲みの流行があるので缶ビール系、缶チューハイ系はいいだろうが、購入先に料飲店が多いボトルは厳しいかもしれない」(元民放役員)

 もっと変化しそうなのが、夏のレジャー関係のCM。

「遊園地、大型プールなどのCMは入りにくいだろう。また、激減必至なのが、日焼け止め効果のあるUV化粧品。外出そのものを避ける人が増えるだろうから」(同・元民放役員)

 民放が2019年に得たCM収入は1兆8612億円(電通調べ)。同年のネット広告費は2兆1048億円で、初めて追い越されてしまったものの、まだ巨額だ。タクシー業界全体にほぼ匹敵する。その売り上げが守れるかどうか。

 カギを握るのは各民放の営業マンだ。

「ドラマやバラエティーの収録ができない制作マンの苦境ばかり報じられているが、今の民放内で一番大変なのは営業マン。CMを出稿するスポンサーを掘り起こさなくてはならないのだから」(同・元民放役員)

 CMを獲得できないと、番組制作費を圧迫しかねない。事実、2008年のリーマンショック時は各局とも制作費を削らざるを得ず、それによってチープなトークバラエティーが増加した。

 各民放は制作面も営業面でも重大局面を迎えている。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集