只今コロナ休業中。月収18万円ネットカフェ難民の「微妙な」半生

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 今回の新型コロナウイルスの流行とそれに伴う景気の悪化は、社会的弱者を直撃している。なかでもコロナ禍を通じて注目が集まったのが、自粛要請によって住み処を失った、いわゆるネットカフェ難民だ。神奈川県は4月11日から、こうしたネットカフェ難民向けに、港北区岸根町にある神奈川県立武道館を開放(6日に閉鎖)。『東京新聞』によれば、期間中は125人が利用したとされる。ルポライターの安田峰俊氏によるリポート――。

 4月27日、私はこの施設に通って取材をおこなっている友人のフォトジャーナリストに同行する形で現地を訪れた。そこで詳しい話を聞いた、56歳のネットカフェ難民・アサオさんのインタビューを以下に紹介してみることにしたい。

 なお断っておけば、私の専門は中国であって、日本国内の格差・貧困問題を普段から追いかけているわけではない。また、アサオさんの状況がネットカフェ難民全体に一般化できるわけでもない。しかし、私は話を聞いてみて非常に興味深いと思ったのだ。

 アサオさんから見えてきたのは、貧しいが絶対的な貧困とまでは言えず、気の毒な面もあるが「自業自得」の部分は否定できず、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)は低いがもっと不幸な人は世間に大勢いそうな気がする――という、なんとも微妙な「弱者」の姿であった。

料金不払いで携帯電話は止められている

――まず、コロナ前の生活について教えてください。

アサオ: 去年の3月から、派遣会社経由で倉庫で働いている。料金の不払いで携帯を止められているんだけど、派遣会社の担当者がよくしてくれてさ。固定の職場(=倉庫)を紹介してくれているから、電話で連絡がつかなくても(コロナ前は)なんとかなってた。職場側は俺の住宅事情は知ってるよ。

 泊まる場所はネットカフェか、ビデオボックス(注:狭い個室内でアダルトビデオを鑑賞できる男性向け施設。終電を逃した際の宿泊用に使う人もいる)だ。シャワー付きか、タオルが貸し出されるかで料金が違ってくる。もちろん休日も料金が違う。

 俺が気に入って泊まっているのは、ビデオボックスの「個室鑑賞 宝島24」の●●店。平日は夜9時から朝10時まで、税込みでも2200円でいられるんだよ。週末は割高になるから別のネットカフェに泊まってる。

「宝島24」の店員は気が利く

――ネットカフェのブースは隣と板で区切られている程度で、上も開いている(上から覗き込めば内部を見られる)など「半個室」の落ち着かない環境です。対して、これは知る人ぞ知る話ですが、ビデオボックスの個人スペースは完全に個室ですし、防音がしっかりしているところも多いですね。

アサオ: ああそうだ。「宝島24」の部屋はリクライニングチェアとフラット(座敷)の2パターンがあるんだけど、あまりに宿泊が頻繁だから店員が俺のことを覚えてくれていて、フラットの部屋を空けておいてくれる。仕事があるから朝5時にモーニングコールを頼んでいるけど、俺が寝過ごしたときは店員が気を利かせて15分後くらいに、再度鳴らしてくれんだよ。気が利く。

――「宝島24」のキャッチフレーズは「ホテルがライバル」ですが、モーニングコールまであるんですね。ヘタなドヤ(簡易宿所)よりも快適な部分もあるかもしれません。

アサオ: パソコンでネットを検索して、ヤフーニュースなんかを読めるのもいい。今回、神奈川県立武道館でネットカフェ住人の受け入れをやっていることも、ヤフーニュースで知ったんだ。それで4月12日に移ってきた。

 緊急事態宣言で、勤務先の倉庫が4月14日で休みになる。いちおう休業補償が出るけれど6割だから。神奈川県立武道館ならネットカフェと違って滞在費がいらないので、移ってきた。入り口で体温測定をして、簡単な問診をすれば入れた。

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