消えない「金正恩」の影武者説 重体報道と20日間の動静不明が意味するもの

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声紋分析のリスク

 この時代に影武者と言われても、ピンと来ない方が大半だろう。だが、北朝鮮情勢に詳しい東京通信大学の重村智計教授は「あり得ない話ではないのです」と指摘する。

「ロシアのイタル・タス通信は平壌に特派員を駐在させています。同社は4月22日、『平壌のスーパーマーケットに数百人の買い占めの行列が続く』と報じました。北朝鮮でスーパーを使うのは富裕層や政府高官の家族です。つまり金正恩氏により近い層が、健康問題による政情不安を感じ取ったことを暗示する記事が報じられたのです」

 重村教授はロイター通信が25日(日本語電子版)に伝えた「中国、北朝鮮に医療専門家などのチームを派遣=関係筋」の記事にも着目する。まずは本文を引用しよう。

《中国は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長についての助言を行うため、医療専門家や高官を北朝鮮に送った。事情に詳しい3人の関係者がロイターに明らかにした》

《2人の関係者によると、中国共産党中央対外連絡部のメンバーが率いる代表団は23日、北朝鮮に向けて北京を出発した》

 この報道は《医療専門家などのチームを派遣》の部分が注目され、日本のメディアも引用して伝えた。重村教授は《中国共産党中央対外連絡部》の高官が派遣されたことも重要だと指摘する。

「2011年12月、父親の金正日氏(1941~2011)の死亡2日前に、対外連絡部の部長が代表団を率いて平壌に入りました。そして当時総書記だった正日氏の病状を確認した上で、中国が北朝鮮の安全を保障したことがありました。つまり、対外連絡部の高官が北朝鮮を訪問するというだけで、何らかの大きな事態が発生していると疑うべきなのです。先に紹介したタス通信の報道や、アメリカが衛星で平壌にある総合病院の『金萬有病院』などの動向を監視していることを考え合わせると、金正恩氏が心臓の手術を受けたという報道は、依然として事実である可能性が高いと見ていいのではないでしょうか」

 肥料工場の完工式に出席したという国営メディアの報道も、むしろ影武者の疑念を抱かせる内容だという。

「朝鮮中央通信の記事本文や写真をチェックすると、完工式に同行した幹部の顔ぶれとして、金才龍首相や、妹の金与正氏(31)などが伝えられています。しかし、正恩氏が出席する式典の“格”から考えると、かなり人数が絞られている印象が強いのです。本来なら、もっと大勢の幹部が出席してしかるべきでしょう」(同・重村教授)

 なぜ、幹部の数が少なかったのか。重村教授は「幹部クラスでも新型コロナウイルスに感染した可能性があると分析する専門家がいるのは事実です」としながらも、影武者説の傍証とも考えられると指摘する。

「完工式に出席した幹部は、影武者の存在を把握しており、自ら登場の命令を出してもおかしくないほどの高官ばかりとも言えます。何よりも彼らは影武者という“国家秘密”を絶対に外部に漏らさない、“大幹部中の幹部”なのです」

 更に正恩はスイス製の高級腕時計、パテック・フィリップを愛用していることで知られる。だが、今回の写真や動画には、その腕時計が確認できない。そのことも疑いを持たれている1つだという。

「最も大きな疑念は、テレビで動画まで放送しながらも、正恩氏の肉声は報道されなかったことです。声を流せば、アメリカ、韓国、そして日本は声紋分析を行うチャンスを得ます。調査の結果、別人だと判明すれば、影武者が科学的に確定できるわけです。それを北朝鮮は忌避したのかもしれません。いずれにせよ今後の焦点は、北朝鮮の国営メディアが正恩氏の肉声をいつ報道するかに絞られてきました」(同)

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