新型コロナ重症例でも効く科学的根拠は? 「レムデシビル」とその次の候補薬について

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中国vs米国の構図も

 米国の製薬企業ギリアド・サイエンシズ社が開発を進めているレムデシビル。主に中等症~重症な新型コロナウイルス感染症の治療薬として注目され、国内で今月にも特例承認されるという流れになっている。

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 すでに広く認知されているアビガン(一般名ファビピラビル)も国内承認にまで至っていないなか、この薬のことを我々はどれほど理解しているのか。そして次なる候補薬は?

 東京オンコロジーセンター代表の大場大氏、国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長の増富健吉氏は共にがんを専門とする。忖度のない立場からの専門外領域対談――。

大場:国内報道で騒がれている「アビガン(一般名ファビピラビル)」に次ぐ「レムデシビル」、どちらも国内メディアがすでにCOVID-19患者に対して「特効薬」であるかのような空気をつくっていますが、アビガンについては有効性を示した確固たるエビデンスはまだ存在していません。

 一方でレムデシビルは、現在、国際共同で大規模な比較試験が行われている最中ですが、先日、米国立アレルギー感染症研究所が主導して行っていた1000例を超える比較試験の結果がプレスリリースされ、31%に回復期間が早くなる改善効果を認めたようです (https://www.nature.com/articles/d41586-020-01295-8)。

 ただし死亡率には統計学的な差がなく、安全性も不明であることから、近々明らかにされる試験全体の蓋を開けてみるまでは、早期承認と騒ぐのは控えたほうがよさそうです。

 面白いのは、米国のプレスリリースと同じ日、医学トップジャーナルであるランセット誌に、中国で行われていたレムデシビルの比較試験の結果が掲載されたことです。内容は「効果が認められない」というものでした。このネガティブな結果は、世界保健機構(WHO)が許可なく勝手にフライングで公表してしまい問題になったものです。米国ギリアド社は、即座に中国の「試験の質」について異議を唱えています。新型コロナウイルス治療薬市場における、中国vs米国の背景も垣間みえるこのレムデシビルについて、詳しく教えてください。

増富:レムデシビルもアビガンと同じく、「RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)」を標的としたお薬だということです。前回も話しましたが、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、エボラ出血熱ウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)などの「RNAウイルス」は共通して非常によく似た「RdRP」を持っています。

「RdRP」はウイルスが複製(コピー)されて増殖するためのアキレス腱だといえます。ウイルスが違ってもこの酵素はよく似ているので、そこを標的として狙い撃ちにできると考えたわけです。違いは、アビガンはインフルエンザウイルス用に開発されたお薬であり、レムデシビルはエボラ出血熱ウイルス用に開発されたお薬だということです。

大場:アビガンは催奇形性の問題から、季節性インフルエンザ市場では使用不可でしたし、レムデシビルは、コンゴで行われたエボラ出血熱に対する比較試験の結果が思わしくなく、開発が止まっていました。もっとも、同じ「RNAウイルス」だからこそ、ウイルスが違っても横断的に治療戦略を考えられるわけですね。ほかにも有望な薬は考えられますか?

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