ポスト安倍No.1 石破茂が語る「巣ごもり」の光と影――「あの人の#おうち時間」(7)
新型コロナによる「おこもり」は不自由だけれども、自由な時間は山ほどある!ということで、人生に突如として現れた「おうち時間」の過ごし方を紹介してもらうこの企画。第7回は元自民党幹事長の石破茂さん。さて、いかがお過ごしですか?
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――新型コロナウイルスによって生活はどう変わりましたか?
3月末あたりから夜の会合がまったくなくなりました。会食といっても私の場合は、懇談会兼あるいは勉強会兼、といったものでしたが、それらが全部キャンセルになった。
また週末各地に呼ばれての講演会が7月くらいまで消えてしまいました。党の会議もほとんどなくなりました。
それでヒマになったかといえば意外とテレビ出演や雑誌の取材が増えました。なぜか女性誌の取材などもあるので完全に時間が空いたわけでもありません。
ただ、それでも夜9時前には家に帰れるようになり、かなり時間ができたので、本を集中して読めるようになりました。
大臣や幹事長といった立場の時には、口癖のように「もっと勉強する時間が欲しい」と言っていました。そういう立場を降りた後も、なかなか時間が取れなかったのですが、今回はかなりまとめて本を読む時間ができつつあります。
とりあえず必要性に迫られて目を通したものや、通そうとしているものは、以下のようなところでしょうか。
『国家安全保障の政治経済学』(吉原恒雄、泰流社)、『パンデミックとたたかう』(押谷仁・瀬名秀明、岩波新書)、『国家権力の解剖 軍隊と警察』(色摩力夫、総合法令)、『軍事法廷 戦時下の知られざる「裁判」』(北博昭、朝日選書)、『アメリカ大統領選 勝負の分かれ目』(大石格、日経プレミアシリーズ)、『知られざる潜水艦の秘密』(柿谷哲也、サイエンス・アイ新書)等々。
吉原先生の本なんかは何度も読んでいるのですが、もう一度読み返したい、と思って取り出しました。
夏休み前に気宇壮大な計画を立てて失敗してしまう子供みたいにならないように、とは思っていますが。
――いかにも、というか硬い本ばかりですね。
いやいやそんなことはないですよ。いい機会だから久しぶりに三島由紀夫を読み直そうとしていて、これは楽しみなんですよ。『豊饒の海』4部作、『午後の曳航』『女神』『美徳のよろめき』……『豊饒の海』は結構しんどいけれど、『美徳のよろめき』あたりはワクワクしますね。
――入学式や授業が遅れている若者、たとえば大学生にお薦めしたい本などはありますか?
うーん、どうでしょう。自分自身、法学部の学生だったので、法律書とかばかり読んでいたから……でも先ほど言った三島はよく読んでいました。
あとは井上靖、川端康成、五木寛之……五木さんは全部読んでいましたね。
井上靖ならば『天平の甍』もいいけれど『氷壁』『欅の木』あたりが面白いのではないでしょうか。
五木寛之さんはとにかく圧倒的に面白かった。『蒼ざめた馬を見よ』も良かったし、特に好きだったのは『天使の墓場』という作品。核兵器を積んだB52が墜落して……という小説ですね。
時間があるのなら、古い映画を見てみるのもいいかもしれません。今はネットで何でも見られるでしょう。「カサブランカ」とか「哀愁」なんていいですね。「哀愁」のヴィヴィアン・リーは息をのむほど美しいとはこのことか、と思いますよ。
現在の状況と重ね合わせて「感染列島」「復活の日」なんて邦画を見るのもいいでしょう。「感染列島」を見ると血が凍る思いです。
――そういう感じで「巣ごもり」を楽しめばいいということでしょうか。
うん、ただ「巣ごもり」の弊害も確実にあるのだから何とかしなければ、と思っています。私たち政治家は、目の前に仕事があるからいい。でも、ご高齢のご夫婦や単身者で、外に出られないといった方のことはもっと真面目に考えなければならないと思います。緊急事態宣言が出されて「外出は控えてください」「あれはやめてください」といったメッセージばかりが強調される。それに真面目な人ほど耳を傾けて、家にこもる。
本当は緊急事態というのは、自治体ごとに判断すればいいというだけで、その時に、人との接点が断たれてしまうと「自分の存在って何だろう」と不安に思うようになる。誰とも会話しないで、特にやることもないと、そういう不安に直面してしまうでしょう。その方たちについてもっと思いを馳せなければと思うのです。やることがある人はまだいい、なくなった人の心は心配です。
「じゃあお前に何ができる」と言われても、すぐに実行できる妙案があるわけではありません。もしも身内にそういう方がいれば、電話をしたり、手紙を書いたりしていただきたい、と言うことくらいしか今はできません。しかし、こういう方たちに何ができるか、ということもこの間の宿題として考えたいと思っています。