ボリス・ジョンソンを見習えるか(中川淳一郎)

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 スーパーやドラッグストアで働く人々が心配でたまりません。何しろ、彼らは毎日、人間の醜悪な部分を見せられているのですから。

 新型コロナの蔓延以降、店には客が押し寄せ、買い占めをしたり、店員さんに「いつマスクは入るのだ!」「なんで便所紙がないのだ!」と食ってかかったり。「入荷は未定です」と説明しても、翌日やってきては同じ質問を繰り返す。こんな客を毎日相手にすれば、「もう人間なんて嫌」と思うに違いありません。

 私はこれまで、近所の業務用スーパーを利用していたのですが、最近は、目の色変えて目的の品を探して走る殺気立った客たちや、そんな彼らへの対応で疲弊しっぱなしの従業員の方々の姿を見てられなくなり、遠くにあるコンビニに行くようになりました。

 異常な状況下にありますが、吉報も流れました。イギリスのボリス・ジョンソン首相が新型コロナから生還を果たしたのです。一時期はICUに入り、深刻な状況にもなったようですが、退院後に公開した動画は人々の心を打ちました。外出を控え、「社会的距離」を徹底するなど、我慢を強いられている英国民や医療関係者に、そして自分自身をケアしてくれた人々には実名を挙げて、感謝の言葉を述べたのです。

 元々ジョンソン氏はブレグジットを主張し、「イギリスのトランプ」扱いされ、リベラル派からは総スカンでしたが、今回の演説で評価は鰻登り。理由は、自らの言葉で本心を述べ、人々に心からの感謝をしたから。やっぱりリーダーってこうあるべきですよ。

 一方、我らが安倍晋三氏はというと、会見はプロンプターに浮かぶ文字を読み上げるだけ。当然ながらまったく心に響きません。

 そして極めつきは、「家にいろ」をアピールするために作った動画。星野源が公開した「うちで踊ろう」の動画を勝手に使い、その脇で自分自身がソファーに座って飼い犬を撫で、茶を飲む姿を披露しました。

 折しもこの動画がアップされた日、失業者たちが、コロナ感染のリスクを押して、安倍氏と麻生氏の豪邸がある渋谷で、休業補償を訴えるデモを行っていました。そんな中、この優雅な動画を安倍氏に配信するよう助言した馬鹿は誰なのか。まともな感覚があれば炎上するのは分かるでしょうに。想像するに、「一般的な家にいる姿」を見せたかったのでしょうが、多くの一般家庭では、子供の面倒を見ながらリモートワークという修羅場が展開されており、優雅に茶なんて啜ってられない。

 そもそも日本の政治家は、どの党所属であろうとも様々な利権団体から支援を受けているため、大胆な政策決定はできないし、官僚任せのため、人の心を打つスピーチも望めない。

 では何ができるのか。現場で奮闘する医療従事者、小売店関係者、インフラや運送業者の皆様への感謝と苦しむ人への素早い支援です。変な動画で国民感情を逆なですることではない。

 安倍氏はよく民主党政権時代を“悪夢”と呼びますが、それは、東日本大震災の影響が大きい。

 このままだと、今回のコロナ禍が終息したあとには、「悪夢の自民党政権」という言葉が誕生することになるでしょう。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年4月30日号掲載

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