新型コロナウイルス、政府の対応は「場当たり的」になっていないか

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 新型コロナウイルスへの日本政府の対応に、不満が高まっている。かつて安倍総理の支持を表明していたような人であっても、今回の一件ではその危機管理能力に疑問を呈したり、批判したりしている。

 そして、そもそも政府の方針がよくわからないうえに、コロコロ変わっているかのようにも見える。

 代表的なのは、感染症法上の指定感染症に指定する政令施行の前倒しの一件だろう。もともとは「周知期間を置かなければ法的に問題がある」と言っていたのに、世論、WHOの緊急事態宣言を受けて、6日間前倒しにされた。

「できるんなら最初からやっておけよ」と感じた人も多いことだろう。

 それ以外にも、

「なぜ湖北省限定? 中国全土にしない?」

「検査拒否を許したのはなぜ?」

「会見をしている人はなぜ聞かれると分かっているようなことを調べないのか?」

「なぜ国内で不足しているマスクや防護服を中国に送る?」

 等々、さまざまな不満や不信の声、疑問がネット上などにもあげられ続けている。

 もちろんウイルスの発生は日本政府のせいではない。また、中国からの入国を早い段階ですべて拒否するのも難しかったのかもしれない。

 それでも不満や不信の声があがるのは、政府のやり方に一貫性や「絶対に蔓延させない」という強い意志が感じられないからではないだろうか。

 何となく後手後手に回っている、「場当たり的だ」といった印象は否めないところだろう。

「もともとは国家安全保障会議を設立するくらい、危機管理への意識が高かったはずの安倍総理にとって、今回のような事態こそ腕の見せ所だったはずなのに、残念です」

 そう語るのは『「場当たり的」が会社を潰す』という著作がある北澤孝太郎東京工業大学大学院特任教授。日本テレコム(現ソフトバンク)では執行役員法人営業本部長を務めるなどの経験を持つ組織マネジメントのプロだ。同書では、さまざまな「場当たり的」上司が組織を混乱、疲弊させる様が描かれている。

 たとえばさほど根拠なしに「売上高●●%アップ」という数値目標だけを掲げて、そのための戦略や戦術は「現場に任せた」というタイプの上司。これでは有効かつ一貫した戦略を練ることはできない、すると「場当たり的」になってしまって、組織は迷走する、というのが北澤氏の指摘だ。

 そういう事態を避けるためには、「トップは強い思いを持ち、それを下のものに伝えなければいけない」と北澤氏は強調する。

 では、現在の政府に足りないものは何か。北澤氏はこう語る。

「企業でいえば、この会社は何のためにあるのか、ということをトップは語れる必要があります。最終的には利益を上げることでしょうが、『業界ナンバー1を目指す』という思いを持つ経営者もいれば、『ほどほどの収益を持続させ、無理のない範囲で楽しくやろう』という思いを持つ経営者もいるでしょう。

 その強い思いを社員に共有させなければ、企業は前に進みません。

 安倍総理が『日本政府は何が何でも国民を守る』と思ってらっしゃるのであれば、それを強い言葉で発信する必要があると思います。『担当省庁に指示を出しました』『担当者がきちんとやります』では駄目なのです。まずトップが熱く、思いを語ることです。

 その強い思いから、戦略が生まれ、さらに戦略から戦術が生まれるわけです。

 たとえば、V9時代の川上哲治巨人軍監督は、『絶対に勝つ』という強い思いを常に口にして、そこから戦略、戦術を組み立てていました。この『絶対に勝つ』にあたるものが、今、政府からは伝わってきません。短く、強い言葉が無い。

 思いを伝える際には言葉選びも大切ですし、伝え方に工夫しながら具体的な方策を示す必要があります。

 普通にニュースを見ている国民からすれば、頼りなさそうな厚労大臣や、厚労省の官僚が日々、その時々の状況や対策を報告しているだけに感じられてしまう。トップの本気度が伝わってこない。

 安倍内閣は観光産業、インバウンドを景気の起爆剤と考えていたはずで、世界から注目されている危機的状況だからこそ、『さすが日本の対応はしっかりしている』『日本なら大丈夫だ』といった反応を得るために有効な戦略を練らねばならないのに、そういう観点が無いように見えます。

日本の感染者数は多いといっても、大半は客船の乗客である現状を見ると、『日本が危ない!』といった海外の評価は、日本国内の報道に影響されている面もあるように感じます。であるならば、国内のメディアに対して情報を公開しながらも、過度に事態を大きく見せないようにコントロールする、といったしたたかさも政府には必要でしょう。

 現状、海外の対応を横目に見ながら、その時々の対応を決めているような感じです。企業でいえば、他社や他部署の動向を見てから自分たちの方針を決めるようなもので、それでは危機を突破できるはずがありません。そうした対応は国民にとって『場当たり的』に映ってしまうのです

 米国や中国といった大国の動向を横目に見て、その場その場で考える、というのではなく、もっと日本独自の方針を示してほしい、と思うのですが……」

 ここから起死回生の策を打てるのか。支持率のためではなく、国民のためのリーダーシップが求められている。

2020年2月19日掲載

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