金正恩の「手術後、重体」報道、CIAがリークしたウラで繰り広げられる凄まじい情報戦

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デイリーNK“スクープ”の背景

 何しろ金正恩にとって金日成の遺体安置場所の訪問は、国家統治の“正当性”を保証する最重要の儀式の1つだ。欠席などあり得ない。

「北朝鮮も国家のトップに心臓疾患のリスクがあることから、対策を練ってきました。東京都内にある総合病院の助力などを受け、平壌に総合病院の『金萬有病院』を建設しています。心臓病の手術、治療に必要な最新機材を揃え、都内の総合病院とは人的な交流も行っています。アメリカは偵察衛星で金萬有病院を監視しているはずですから、人や車の移動を把握、手術の確証を掴んだと思われます」(同・重村氏)

 朝鮮中央通信が掲載した金正恩の“近影”も興味深い。同紙は10日、正恩が砲撃訓練を指導する姿と、11日に開催された朝鮮労働党政治局会議に出席した時の写真を掲載した。

 このうち、少なくとも会議の写真は「去年の写真を使い回した」可能性が取り沙汰されているという。

 いずれにしても、正恩の手術情報は、韓国とアメリカの諜報機関が、それぞれ異なる必要性から、マスコミへのリークを行ったと見られる。

「北朝鮮との融和路線を志向する文在寅大統領(67)は一貫して、国内の対北諜報部門を冷遇しています。一例を挙げれば、北のスパイを検挙する権限を剥奪してしまいました。これほどの政治的圧力を加えているのですから、諜報部門が北朝鮮にとって不利な情報を大統領府に報告すると、たちまち左遷させられると言われています。つまり金正恩氏の手術情報をキャッチしても、今の政権では有効活用できません。そのために諜報機関は、デイリーNKにリークしたと考えられます」(同・重村氏)

 一方のアメリカは、北朝鮮国内のスパイから得た情報や、衛星の監視などと合わせ、トランプ大統領(73)も重要な役割を担ったようだ。

「トランプ大統領は4月18日の会見で、金正恩氏から『書簡を受け取った』と明らかにしました。ところが北朝鮮の朝鮮中央通信は翌19日、書簡を送った事実はないと全否定します。大統領からすると赤っ恥をかかされたわけですが、この件に関して大統領だけでなくスタッフも沈黙を守っています。こうしたことから18日の発言は、いわゆる“観測気球”であり、北朝鮮の反応を見るための発言だったということでしょう」(同・重村氏)

 いつもの北朝鮮であれば、朝鮮中央通信の報道を通して否定のメッセージを伝えるにしても、もっと勇ましい調子になる。

 だが、今回は極めて淡々とした文面だった。このことからアメリカは「正恩氏の容体は、かなり悪いのではないか」と判断した可能性があるという。

「ただ、アメリカの場合、『正恩氏が手術を受けたが、経過は良好だ』という内容ですと、せっかくリークしても、メディアが報じない可能性があるわけです。CIAといったアメリカの諜報機関がCNN側に手術情報を漏らす際、確実に放送してもらうため、ことさらに重体だと強調した可能性はあります。現時点で冷静に情報を総合すると、手術は事実ですが、体調は快癒から重体まで幅があると見るべきでしょう」(同・重村氏)

 韓国政府は過去に、金日成の死亡説を発表したが、後に誤報だったことが判明している。

 韓国の中央日報(日本語版)は23日、電子版の記事として「【コラム】CNNは『金正恩委員長が重篤』…韓米情報に差(1)」を掲載した。

 この記事に、かつて金日成暗殺説を発表した経緯が紹介されている。

《1986年11月中旬、ソウルでは「金日成(キム・イルソン)襲撃死亡」という衝撃的な報道があった。北朝鮮の金日成主席が暗殺されたというニュースに国際社会は騒々しくなった。大統領が緊急閣僚会議を開き、北朝鮮軍最前方部隊に弔旗が掲揚されたとか金日成主席の死を意味する歌が流れているという国防部の報告が続いて、死亡は事実のように見なされた。しかし報道の2日後の同月18日、金日成主席は平壌(ピョンヤン)を訪問したモンゴルの人民革命党書記長を出迎えるために順安(スンアン)飛行場に姿を現した。米軍盗聴部隊の誤った諜報が震源という主張から、国防部責任論、北朝鮮工作説などが続いたが、ミステリーとして残った。韓国では屈指の大型誤報事態に挙げられる》

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