金正恩の「手術後、重体」報道、CIAがリークしたウラで繰り広げられる凄まじい情報戦

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祖父、父、そして息子も心臓病

 世紀の大スクープか、大誤報か――。アメリカのCNNは4月21日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(36)が手術後、重体に陥ったとの情報があると伝えた。日本のマスコミも大きく報道したが、まずは新聞各紙の同日夕刊に掲載された記事の見出しをご覧いただこう。

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◆読売新聞「正恩氏『手術受け重篤』 米報道 『容体好転』別報道も」
◆毎日新聞「北朝鮮:金正恩氏に重篤説 『心臓手術後合併症』 CNN報道」
(註:引用はデイリー新潮の表記法に合わせた、以下同)

 次に共同・時事の通信社と、翌22日の朝刊で報じた産経新聞の見出しだ。

◆共同通信「金正恩氏、手術受け重体との情報 米CNN報道、韓国は異変を否定」
◆時事通信「金正恩氏、術後に重体情報=別荘で治療中の報道も、韓国『特異動向なし』-米CNN」
◆産経新聞「『正恩氏、手術後に重体』 米報道、韓国政府は否定」

 衝撃的なニュースであることは言うまでもないが、共同・時事・産経各紙の見出しにもある通り、韓国は情報を否定した。

 菅義偉官房長官(71)は21日の会見で、「アメリカと連携し、情報の収集と分析」を行うとした。素っ気ない印象を持った向きも少なくないはずで、「CNNの報道は本当なのか?」と疑問に感じた方もいるだろう。

 北朝鮮情勢に詳しい東京通信大学の重村智計教授に取材を依頼すると、「日本、韓国、そしてアメリカの3か国は、『金正恩氏が手術を行った』ことについては、確証を持っていると思います」と解説する。

 歴史を振り返ると、祖父の金日成(1912〜1994)、父の金正日(1941〜2011)も急性心筋梗塞で死亡したとされる。つまり心臓病の家系なのだ。

「金正恩氏は心臓病と糖尿病を患っており、かなり状態が良くないと言われています。またCNNが報道を行った前日の4月20日、韓国のデイリーNKは金氏が心血管系の手術を受け、地方で治療を受けていると報じました」(同・重村氏)

 北朝鮮トップの健康管理は、フランスの医療機関が伝統的に関与してきた。北朝鮮国内の医師が担当した場合、たとえ病死であっても、処刑の必要が生じてしまうからだという。

「金正恩氏は昨年にペースメーカーを入れたという情報があり、更に今年2月にはフランスの医師が心臓手術を勧告したという話もありました。ただ、最近の正恩氏は重要な行事でも動静が伝えられないなど、不審な点が多かったのです。そのため、かなり急を要する手術が、北朝鮮の医師によって執刀された可能性が浮上しているのです」(同・重村氏)

 動静の混乱を報道から振り返ってみよう。共同通信が4月16日に配信した「北朝鮮、金正恩氏動静伝えず 太陽宮殿にも姿なし」からご紹介する。

《北朝鮮の朝鮮中央通信は16日、故金日成主席生誕108年を迎えた15日、朝鮮労働党や政府、軍の幹部らが金日成氏の遺体が安置されている平壌の錦ス山太陽宮殿を訪問したと伝えた。例年、幹部らと共に訪問してきた金正恩党委員長の姿はなく、日米韓は動向を注視している。

 金正恩氏が名実ともに最高指導者となった2012年以降、北朝鮮メディアは毎年4月15日か、その翌日には金正恩氏の太陽宮殿訪問を伝えており、報道がないのは初めて。

 金正恩氏は今月11日に党政治局会議に出席したことが12日に報じられて以降、動静は明らかになっていない。12日に開かれた国会に当たる最高人民会議でも姿を見せなかった》

 重村氏は「最高人民会議における不在は当初、北朝鮮で新型コロナが蔓延しており、その感染予防の一環だと考えられていました」と指摘する。

「そもそも最高人民会議は10日に開かれる予定だったのですが、実際は2日遅れで行われました。理由は現在に至るまで発表されていません。最高人民会議には約600人が出席することから、当初は『全員にPCR検査を実施したところ、何人かに陽性反応が出たのではないか』と見られていたのです」

 ところが、金日成の誕生日に金正恩の動静が伝えられなかったことから、日韓米は“異常事態”の発生を分析したという。

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