“行き倒れ”の遺品・所持金をネコババで懲戒… 新宿区役所の40歳主査

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 芥川龍之介の『羅生門』には、行き倒れになった女の遺体から毛髪を引き抜く老婆が登場する。その毛で鬘(かずら)を作り、日々の糧に換えていたのだ。芥川は、老婆に人の本性を語らせる。

「これとてもやはりせねば、饑死をするじゃて、仕方がなくする事じゃわいの」

 小説が描くのは疫病と天災に悩まされる平安の世。が、現代になっても野垂れ死にする人は後を絶たない。

 東京都の新宿区役所に勤務する主査(40)が、「行旅死亡人」の所持金や遺品を自宅に持ち帰っていたとして懲戒処分を受けたのは3月27日。行旅死亡人とは“行き倒れ”のことで、名前の分からないホームレスが死んでも行旅死亡人となる。

 区役所の調べに対して主査は事実を認め、すでに依願退職しているという。

「本人は以前、生活福祉課に勤務しており、そこで行旅死亡人の火葬などを担当していました。その後、保護担当課に異動したのですが、遺品を保管する場所に出入りできたことから金品を持ち出していた。現在、警察に捜査を依頼しており、詳細は分かっていませんが金額は十数万円というところでしょうか。窃盗が認められれば改めて厳しい処分が下されます」(新宿区人事課)

 同区役所によると区内の行旅死亡人は、昨年度で72人。一昨年(35人)の2倍以上で、増加傾向にある。全国では3万人以上になるという。

「行旅死亡人のご遺体は区が火葬しますが、現金を残しておられた場合、火葬場の費用にあてられます。それを差し引いて残ったお金やカバン、時計などの所持品は茶封筒などに入れて倉庫に保管しておきます。保管期限は設けていません。ある日、突然遺族の方が現れたりすることもありますので、お金を都の会計に入れたり、品物を処分するわけにはいかないのです」(新宿区生活福祉課)

 元主査はそれを知って、心が揺らいだのだろうか。このネコババ事件、「令和」が格差拡大と高齢化の世であることも教えてくれる。

週刊新潮 2020年4月16日号掲載

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