五輪延期で「侍ジャパン」の主力メンバーはガラリと変わる可能性 佐々木朗希は救世主になるか

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 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、今年7月に開幕する予定だった東京オリンピック・パラリンピックも来年7月に延期となった。各競技で代表内定者の扱いについて議論が起こっているが、選手選考に大きな変更を余儀なくされるのが野球の侍ジャパンだ。2020年の金メダル獲得を至上命題に17年7月から稲葉篤紀監督が就任し、長期スパンでチーム作りを進めてきた。しかし、1年延期したことで代表候補と見られていた選手が故障に見舞われることや、秋山翔吾(レッズ)や筒香嘉智(レイズ)のように今シーズンのオフにメジャーに移籍するようなケースも、当然考えられる。そこで東京五輪の開催延期によって、侍ジャパンのメンバーがどのように変わるかを考えてみたい。

 今年メンバーを組むとなると、先発投手陣の柱となるのは千賀滉大と菅野智之の二人になるだろう。千賀は16年オフに初めて日本代表に選出されると、翌年に行われたWBCでは投手陣の中心として4試合に登板し、防御率0.82という見事な成績をマーク。大会の最優秀投手にも選ばれている。菅野は15年のプレミア12で侍ジャパン入りを果たし、17年のWBCではチームトップの3試合に先発。準決勝ではアメリカの強力打線を相手に6回を投げて被安打3、1失点(自責点0)という圧巻のピッチングを見せた。昨年はコンディション不良もあって大きく成績を落としたが、万全の状態であれば最も安心して先発を任せられる投手と言えるだろう。しかしこの二人はいずれもメジャー移籍希望を表明している。二人が所属しているソフトバンク、巨人は基本的にはポスティングシステムでの移籍を認めていないが、ここ数年の流れを見るとメジャー移籍が実現する可能性は十分にあるだろう。

 この二人以上にメジャー移籍の可能性が高いのが山崎康晃(DeNA)だ。2年連続でセ・リーグの最多セーブに輝き、通算163セーブは現役選手では3位タイ。15年に行われたプレミア12では3試合、3回をパーフェクトに抑え、昨年のプレミア12では侍ジャパンのクローザーとして5試合に登板して被安打わずかに1、3セーブをマークしてチームの優勝にも大きく貢献した。しかし、昨年オフの契約更改の場ではメジャーへの移籍志望を伝えており、球団側も容認する姿勢を見せている。今年も十分な成績を残せば、来シーズンはアメリカでのプレーが既定路線といえる。

 千賀、菅野、山崎が揃ってメジャー移籍となると、先発とクローザーを誰にするかを再考する必要が出てくる。先発では有原航平(日本ハム)も有力な候補となるが、三人と同様にメジャー希望を表明しており、計算しづらい状況だ。先発は三人が必要となるが、実績と昨年のプレーぶりを考えると大瀬良大地(広島)、今永昇太(DeNA)、山岡泰輔(オリックス)を推したい。則本昂大、岸孝之(ともに楽天)の二人も実績はあるものの、ともに昨年は成績を落としており、年齢的な後退を考えると選びづらい状況だ。

 大瀬良、今永、山岡の三人は千賀や菅野に比べると圧倒的に打者を抑え込むような力はないが、先発としてしっかり試合を作れるのは大きな強みだ。山本由伸(オリックス)も考えたが、山崎がいなくなると考えると、リリーフに置いておきたいので先発からは外した。山崎に代わるクローザーは山本か松井裕樹(楽天)が候補になるだろう。

 山本は昨年のプレミア12でもセットアッパーとして抜群の成績を残しており、現在最も安定感のある投手である。また、松井は今季から先発に転向する見込みだが、抑えとしての豊富な経験と来年で26歳という若さを考えても、代表に選出される可能性は高いだろう。

 一方の野手陣も不安要素がある。それが主砲の鈴木誠也(広島)のメジャー移籍だ。昨年行われたプレミア12では全試合で4番に座り、打率.444、3本塁打、13打点と打撃三部門で全て大会最高の成績を残し、MVPにも選ばれた。確実性と長打力を兼ね備え、守備と走塁の能力も高いまさに万能タイプで、鈴木がいれば4番と外野の一角を安心して任せることができるだろう。

 だが、近い将来のメジャー移籍は既定路線であり、来シーズン、日本にいない可能性がある。代わりに4番を任せられる候補としては山川穂高(西武)、吉田正尚(オリックス)、岡本和真(巨人)などの名前が挙がるが、いずれも打撃に特化したタイプの選手であるため、守備や機動力の面では戦力ダウンは否めないだろう。

 ここまでは1年延期による不安材料やマイナス要素を中心に触れたが、もちろんプラスの面もないわけではない。それが若手の台頭だ。昨年のプレミア12ではルーキーの甲斐野央(ソフトバンク)が中継ぎの一角として大活躍したが、他にも成長が楽しみな選手もいる。投手で期待したいのは、やはり、佐々木朗希(ロッテ)と奥川恭伸(ヤクルト)だ。キャンプではトレーニングが中心で無理をさせない方針で調整が進んでいるが、ペナントレースの開幕が延期となったことは二人にとってもプラス面が多いはずだ。シーズン後半に一軍デビューを果たして、来年からローテーション入りということになれば、代表候補に名を連ねることも十分に考えられる。

 野手ではやはり村上宗隆(ヤクルト)と清宮幸太郎(日本ハム)に期待したい。村上は昨年36本塁打、96打点と大ブレイク。今年はコンディション不良で出遅れていたが、3月後半には順調は回復を見せている。清宮は故障もあって昨年は成績を大きく伸ばすことはできなかったが、所々で素質の片鱗を見せた。この二人が日本代表の4番を争うくらいに成長すれば、一気に打線の厚みは増すことになるだろう。

 シーズンの開幕、選手選考などまだまだ不透明な日々が続くが、メジャー移籍や故障で離脱する選手を補うような救世主の出現に期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年4月17日掲載

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