ワインの世界にもあった「コロナまみれ」ヨーロッパ絶望の10年

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ヨーロッパのワイン産地を壊滅させたものとは?

 醸造用ブドウの品種はとても種類が多く、世界に1500種以上は存在すると言われています。ただ、我々が美味しいと思うワインのほとんどは、ヨーロッパ原産の葡萄でできたワインというのが現実です。

 いわゆる大航海時代。ヨーロッパから北米大陸に入植した人たちは、自生していた葡萄でワインを造りました。出来上がったワインの味わいは彼らにとっては全く満足のいくものではなく、ヨーロッパから葡萄樹を持ち込むことにしたのです。

 ところが、何故かそれらの葡萄樹は現地に根付くことなく次々に枯れてしまった。アメリカ独立宣言の起草者の一人として有名なトーマス・ジェファーソンは駐フランス大使時代にヨーロッパ各地の有名ワイン産地に赴き、本国へワインを大量に送り収集したほどの大のワイン愛好家。その彼が第3代アメリカ大統領となった1800年代初頭、ヨーロッパ系の葡萄樹を繁栄させようと、国策で挑むもそれらの葡萄樹はやはり枯死していったのです。

 1800年代中頃には、大西洋間の往来は更に頻繁になり、またガラス工業も急激に進化。 結果、そのガラス容器に入れて北米大陸の植物を標本としてヨーロッパ本国に持ち帰れるようになります。検疫という発想がない時代。ヨーロッパの人たちは、気付かないうちにアメリカから葡萄樹の病気を持ち込んでいたのです。

 こうして、ヨーロッパのワイン産地を壊滅的状況に追い込む「フィロキセラ禍」は起きます。一般的には、最初に被害が確認されたのが1862年の南フランスのコート・デュ・ローヌ地方。一人のワイン商がアメリカから持ち込んだ苗木を自身の小さな畑に植えたところ、2年後にその周りの樹が枯れだしたとされています。

 おそらくこの事例以外にも同様のことは各地で起きていたと思われますが、この害虫に起因する病気が急速に広がり、約10年でヨーロッパ中のワイン産地に被害が拡大。まさに危機的状況に。その間、葡萄栽培農家は原因も分からず、ただ途方に暮れるばかりでした。コロナに振り回される世界の今の状況に似ていなくもない。

 約10年がたった1873年頃、葡萄樹の根に寄生する、アメリカ原産の非常に小さなアブラムシの一種(フィロキセラ)が原因だということが分かりました。葉っぱならまだしも、敵はいかんせん根っこにくっついてるわけで、対策は非常に困難。フランス政府もその解決法に賞金を出したほど。

 ほどなく、アメリカ原産の葡萄品種にはこのフィロキセラというアブラムシに対する耐性があることが判明。耐性がないヨーロッパ系の品種が北米で枯れてしまったのはむべなるかな、です。そこで採られた対策が、アメリカ系品種の台木(根っこのある部分)にヨーロッパ系品種を接ぎ木するという方法。コロナに対するワクチンみたいなものでしょうか。

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