ワインの世界にもあった「コロナまみれ」ヨーロッパ絶望の10年

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僅かに存在する「プレ・フィロキセラ」を

 コロナ禍の収束など全く見えない現在ではありますが、また美味しいワインを飲んで人生を謳歌する時が戻ってくることを、のんびりとワインを飲みながら待つのはいかがでしょうか。 1945年以前のロマネ・コンティのようなものに出合うことは事実上、不可能だとしても、今でもフィロキセラ禍前に植えられて接ぎ木もされていない「プレ・フィロキセラ」と呼ばれるワインは全くゼロではない。極々僅かに存在はしています。

 ロワールの生産者、アンリ・マリオネの「プロヴィニャージュ」はその一つです。ずっと残してあった「2004年」を今年に入ってから飲みました。同じロモランタンという葡萄品種で造られた他のワインとは全く別次元。上品で複雑なヴォリュームがあり、特にエキスをしっかり感じる驚異的なワインでした。

 1800年から1850年頃にかけて植えられたロモランタンという品種からなる僅か0.36ヘクタールの小さな区画があり、そこから年間1000本程しか造られないのがプロヴィニャージュです。

 年老いたブドウ栽培農家から、この畑を譲り受けたアンリ・マリオネというフランスのロワール川流域・トゥーレーヌ地区の生産者が、世に出したのは確か「1998年」ヴィンテージ。それから「毎ヴィンテージ」買っていたのですがそれを2004年で止めてしまっていた。 激しく後悔。買い続けるべきでしたね。葡萄樹も生命があるのでいつかは死んでいきます。

 温暖な栽培エリアでは時折存在する「樹齢100年」を超えた古木ですが、冷涼なロワール川流域ではまさに奇跡。ましてやプレ・フィロキセラ。生産量は少ないですが、目ん玉が飛び出るような価格ではないので機会がありましたら飲んでみてはいかがでしょうか。

 生産者のホームページを見ると、70ユーロで「2015年」が売られているので、まだ造っているようです。またプレ・フィロキセラでなくとも、接ぎ木しない自根での栽培に挑戦している生産者も僅かにいます。その生産量はごく少量ではありますがこちらを楽しんでみるのもいいと思います。

 一度はフィロキセラで、自根の葡萄樹を引き抜かざるを得なかったマルク・アンジェリも、2010年に別の区画に自根の葡萄を植えてますしね。自根の葡萄樹を意味するフラン・ド・ピエというワードで検索してみるといくつか見つかるのではないでしょうか。

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幅紀長(はば・としなが)プロフィール
さしたる目的もないまま大学進学にかこつけ上京。飲食店でアルバイトをしたことがきっかけでワインにハマり、その後フランス料理店でのバイトに明け暮れながらも幸い当時大学はレジャーランドだったこともあり授業に出ずとも何とか無事卒業。就職もせずバイトで貯めたお金を握りしめ3カ月渡仏。野宿とヒッチハイクでフランスのいくつかのワイン産地を回り帰国。フランス料理店でのボロ雑巾扱いの下っ端から社会人デビュー。かれこれ20年以上ワインバーで仕事をしております。世界中のワインを扱って実際に飲んで調べて勉強してきましたが、「自分の人生は世界中のワインを理解できるほど長くはない」という真実に気付き、フランスワインに溺れた生活が長らく続いておりますが、フランスワイン好きにもそうでない方にも、そもそもワインはそれほどでも……という方にも、少しでも楽しみや興味を持っていただけたら幸いです。

週刊新潮WEB取材班編集

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