つげ義春が自ら語る、私小説的マンガの創作部分 便所を改造した部屋に住んでいたのは……

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 2月1日、フランスのアングレーム国際漫画祭で特別栄誉賞を受賞した、つげ義春さん。同行した編集者の浅川満寛さんが、帰国後のつげさんに、受賞の感想や近況を聞いた。

 人前に出ることを嫌うつげさんが、今回フランスへ行くかどうかは、本人が空港に現れるまで、誰にも分からなかった。

 息子の正助さんに連れられ、無事、羽田空港に現れたつげさんだったが、荷物は小さなショルダーバッグ一つで、搭乗寸前まで「いや…もう…帰りたいです」と口にしながらの旅立ちだったという。

浅川満寛(以下、浅川) フランス行きは正助さんの説得がなければ実現しなかったでしょう。日本漫画家協会賞大賞の授賞式では逃げられちゃったから、正助さんもかなり心配してたんじゃないかと。

つげ正助 朝起きて、いなくなってたらどうしようと思いました。

つげ義春(以下、つげ) もうね、年取るとダメですよ。どこ行くのも大変で。だいたい歩くのが辛くてね。

「年取るともう、どうでもいいやって気持ちで、主体性がまるでなくなってます」と言うつげさんは、授賞式で何百人もの観客に笑顔で手を振ったことについて、「ずうずうしくなったのかな」とも語っている。

 今回、アングレーム美術館では、つげさんの原画展も開催され、会場を訪れたつげさんは自作解説を披露。そこで明かされたことについて、あらためて聞くと――。

浅川 「義男の青春」「ある無名作家」で描かれてた錦糸町の下宿屋のトイレを改造した1畳の部屋、あそこに住んでたのは、つげさんではなくて別の人だったそうですね。

つげ そう。僕はその隣の3畳間だったんですよ。大きな下宿だったからトイレが四つあったんです。下宿人も多いしトイレも年中故障してるわけ。そのうちの一つを、下宿のオヤジさんが「ここ直すのめんどくさいから部屋にしちまえ」って改造した。1畳半ぐらいですね。

浅川 その部屋に家賃払わない人が押し込められてたんですか?

つげ いや、家賃払ってましたよ。

浅川 そこも創作だったんですね!
 
(中略)

浅川 つげさんの作品には他にも、私小説的ではあるけれども創作を加えている部分が結構ありますよね。

つげ 作品の中では、それなりの演出をしますから創作も混じってしまう。

浅川 もっともらしく作りこむんですよねぇ。プロの技。

つげ そうか、(読者は)本気にしたりして。

 つげさんの受賞後初コメントを含むこのインタビューは、「芸術新潮」4月号(3月25日発売)の第2特集「つげ義春、フランスを行く」に掲載。フランスでの撮り下ろし写真、浅川さんによるフランス同行記、正助さんの談話も含まれる。

デイリー新潮編集部

芸術新潮 2020年3月25日掲載

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