【新型コロナ】政府も専門家も公然と「マスク不要論」を流布させるフランスの事情 

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マスクをしないフランス人でさえ違和感を抱く政府の方針

 その一つは、マスクについてです。

 元々フランスではマスクをする習慣はなく、マスクをしていると重病人か不審者と思われて、すれ違う人にジロジロ見られます。なので、在仏の日本人の中には、風邪や花粉症でも目立ってしまうのでマスクをしない、という方もいるほどです。

 コロナウイルスの拡大で最近やっとマスクをしている人が増えてきましたが、それでも大半の人はマスクをしていません。

 私はフランスに移住したばかりの頃、薬局に行き、マスクがほしいと伝えたら薬剤師さんに「何のマスク?」と聞かれました。風邪をひいた時、咳が出る時のためにと説明しても不思議そうな顔をされ、「これしかないけど…」と出されたのは、薄い紙でできたマスクでした。すぐに湿って肌に張り付くし、息苦しくて数時間もつけていられないようなものでした。

 さらに、フランス政府が国民にマスクの着用を勧めていないことにも驚きました。

 政府からのコロナウイルス感染予防策はシンプルで、「家に居ましょう」。

 そして「手洗いをしっかりしましょう」、「ハグや握手、頬にキスをする挨拶を控えましょう」といったものです。ここまではわかるのですが、さらに

「くしゃみや咳をする時は口に肘をあてるかティッシュにしましょう」

 と、呼びかけています。肘にくしゃみや咳をしたら服に唾がつくし、口を完全に覆いきれないかもしれないし、そもそも口を覆うのが間に合わないこともあるのでは?という疑問が起こります。

 その上、政府や医者などの専門家がメディアで「マスクは不要、意味がない」と繰り返し主張し、「むしろマスクはしない方がいい」という医師もいます。

 例えば、ヴェラン連帯保健大臣はテレビ番組で「マスクは感染予防という意味では必要ない」、パリの医師は「マスクをしても、そのマスクを触った手で顔などを触ればマスクをする意味がないし、マスクを外す時もゴムの後ろの部分を持ってはずさないといけない。そもそも鼻の横に隙間ができるし、良いマスクをちゃんとした位置につけなければ意味はなく、さらにマスクをすれば大丈夫と思ってしまうことで慢心して感染を広げる可能性がある」と発言していました。

 風邪をひいたらマスク、風邪の予防にもマスクというのが当り前の日本人の私は、マスクをした方がよほど効果的なのでは?と思いましたが、テレビやネットで権威ある人たちが盛んに「マスク不要論」を言うので、それを信じてマスクをしない人達もいるでしょう。

 またマスク着用を推奨しないだけでなく「マスクをするな」と言わんばかりの物言いに、私もマスクをすることがまるでいけないことのように感じ、一時マスクをしづらくなったこともありました。

 それと同時に「フランスには、マスクの十分な在庫がない。国民のパニックを避けるためにマスクを推奨できないのでは?」と思うようになりました。

 日本は年間55億枚のマスクを生産・輸入しています。一方、フランスでは「1億5千万枚の在庫(3月4日閣僚会議。その後2億枚のマスクを緊急発注)」しかないそうです。人口は約6500万人であることを考えれば、あっという間に足りなくなるはずです。

 フランスでマスクを製造できる大手メーカーは政府の要請を受けて、停止していたマスクの生産ラインを動かし、リネンメーカー等が急遽マスクの製造に乗り出しました。いかにフランスでマスクが使用されていなかったかがわかる慌ただしさです。

 普段からマスクが十分流通している日本でさえ、マスク不足で悲鳴を上げています。医療現場以外ではマスクはほとんど流通していないフランスで足りなくなるのは当然のことでしょう。

 とはいえ、コロナウイルスの感染が騒がれ始めてからはフランス人もマスクを買い求めるようになり、2月半ばにはパリでも「マスク、アルコール消毒ジェル売切れ」という薬局が続出しました。そこで、フランス政府は2月29日の閣僚会議で、

「医師の指示がない限りマスクは不要で、薬局にマスクを買い求める人が殺到すると必要な人へのマスクが不足してしまう」

 として、マスクの購入に医師の処方箋が必要になりました。

 その頃から薬局や病院ではマスク等の盗難が続発しています。

 処方箋がないとマスクが買えないなんて日本では考えられないことですが、そのせいか、日本のようにマスクを求めて薬局に行列ができることはありません。

 一方、ネットでは様々なマスクが販売されています。ショッピングサイトのamazonでマスクを検索してみると、洗えば再度使えるマスク、防塵マスク、自分でマスクを作るDIYキットまで出てきます。

 ただ、かなり高額ですし、配達されない、といったトラブルも起きていて、注意が呼びかけられています。

 感染が拡大するにつれ医療現場からマスクが足りない、個人もマスクが欲しいという声は高まっており、日本で現在感染者が増えていないのはマスクをするからではないか、という意見も聞かれ始めました。

 そのため、この週末(3月20~21日)になって「マスクをしても意味がないというのは事実ではない」という医師の声がTVで紹介されたり、マスクを一般にも販売してほしいという要望が増え始めました。

 マスクの在庫がフランスにはないと明言する専門家も出てきて、「医療従事者にもマスクが足りていない現状で、全国民に届けるのは難しい。インターネットではマスクを手作りする方法なども紹介されているので、何もしないよりはそのようなマスクをすることが望ましいかもしれない」などと述べています。

 政府は、こうした声にどう対応するのか注目されます。

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