「ワンポイントリリーフ」禁止の危機 日本球界にどんな影響が出るか?

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 メジャーリーグでは今シーズンから試合時間短縮を目的として、投手は少なくとも打者3人、またはイニング終了まで投げることが義務付けられることになった。日本球界でもこれを受けて今シーズン終了後に導入を検討すると報じられている。実質的な“ワンポイントリリーフ”の禁止を定めたルールであるが、NPBでも導入となった場合、どのような影響があるのか探ってみたい。

 ワンポイントリリーフは左打者に対して左投手をぶつけるケースが大半である。そこでまずは昨シーズン、40試合以上登板した左投手の中でイニング数が登板試合数を下回っている選手をピックアップしてみたところ以下のような顔ぶれとなった(対左打者と対右打者の数字は対戦被打率)。

【西武】
小川龍也:55試合 38回1/3 防御率2.58 対左打者.295 対右打者.184

【ソフトバンク】
モイネロ:60試合 59回1/3 防御率1.52 対左打者.179 対右打者.179
嘉弥真新也:54試合 31回 防御率2.61 対左打者.227 対右打者.321

【楽天】
高梨雄平:48試合 31回1/3 防御率2.30 対左打者.236 対右打者.195

【ロッテ】
松永昂大:46試合 34回2/3 防御率2.60 対左打者.116 対右打者.327

【日本ハム】
公文克彦:61試合 52回1/3 防御率3.96 対左打者.187 対右打者.253
宮西尚生:55試合 47回1/3 防御率1.71 対左打者.211 対右打者.167

【オリックス】
海田智行:55試合 49回 防御率1.84 対左打者.216 対右打者.250

【巨人】
中川皓太:67試合 64回2/3 防御率2.37 対左打者.200 対右打者.269
高木京介:55試合 54回 防御率3.83 対左打者.254 対右打者.259

【阪神】
島本浩也:63試合 59回1/3 防御率1.67 対左打者.225 対右打者.186
能見篤史:51試合 44回 防御率4.30 対左打者.235 対右打者.233

【中日】
ロドリゲス:64試合 60回1/3 防御率1.64 対左打者.153 対右打者.225
岡田俊哉:53試合 50回1/3 防御率3.58 対左打者.167 対右打者.279

【ヤクルト】
ハフ:68試合 65回2/3 防御率3.97 対左打者.245 対右打者.246

 昨年の数字に限って言えば、対左打者のワンポイントリリーフとして最も成功しているのは松永ということになる。左打者の対戦被打率が1割台前半という数字は見事である。しかし、その一方で右打者に対しては3割以上打たれており、この数字を見ると右打者相手には起用しづらいということになるだろう。嘉弥真、中川、岡田なども左打者は抑えていても右打者には厳しいという傾向が出ている。ワンポイントリリーフが禁止されると最も影響を受ける選手達といえる。逆にモイネロ、高梨、宮西、島本などは左右どちらの打者もしっかり抑えており、ある程度安心して1イニングを任せることができそうだ。

 次に各球団の1試合あたりの起用投手の延べ人数を並べて見ると以下のようになった。

西武:606人(1試合あたり:4.24人)
ソフトバンク:620人(1試合あたり:4.34人)
楽天:632人(1試合あたり:4.42人)
ロッテ:611人(1試合あたり:4.27人)
日本ハム:684人(1試合あたり:4.78人)
オリックス629人:(1試合あたり:4.40人)

巨人:651人(1試合あたり:4.55人)
DeNA:644人(1試合あたり:4.50人)
阪神:608人(1試合あたり:4.25人)
広島:573人(1試合あたり:4.01人)
中日:596人(1試合あたり:4.17人)
ヤクルト:637人(1試合あたり:4.45人)

 起用投手が飛び抜けて多い日本ハムは、昨シーズン先発投手が短いイニングしか投げないショートスターターを採用した影響が出ていると考えられる。それ以外で最も多いのは巨人だ。前述した中川、高木以外でも田口麗斗、戸根千明が左のリリーフとして登板機会が多く、また右投手でも大竹寛、田原誠次などが試合数を下回るイニング数となっている。絶対的な抑え投手の不在を、あらゆるタイプの投手の小刻みな継投でしのいできたということがよく分かるだろう。

 ただ、巨人に次いで起用投手人数の多かったDeNAを見てみると、完全な左のワンポイントリリーフという投手は見当たらない。先発が早く崩れて石田健大、国吉佑樹などが早くから登板する機会が多かったことが数字に表れていると考えられる。そういう意味ではワンポイントリリーフが禁止になっても、大きな影響がない球団といえる。DeNAと同じく目立ったワンポイント投手がおらず、起用投手人数の少ない広島も同様で、今の戦い方と大きな変化を強いられることはないだろう。

 あらゆるデータを調べてみたが、もしNPBでもワンポイントリリーフ禁止となった場合には戦い方に影響が出てくることは間違いない。特に左右どちらかの打者だけを抑えることを得意とするような投手は、今後起用しづらい状況になってくる。試合時間短縮のために投手交代の回数を減らそうという意図も分からなくはないが、様々な工夫で何とか生き残ろうとする投手の機会を奪うことに繋がる危険性を秘めていることは間違いない。ただ、アメリカのルールにならうのではなく、今後そういったところまで踏み込んだ議論が行われることを望みたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年3月24日掲載

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