センバツ中止は「同調圧力」と猪瀬直樹氏が指摘 戦前からの悪しき風潮が今も……

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戦争を起こした

 センバツの主催者は毎日新聞社だが、

「毎日新聞は反権力的な新聞で政府批判の急先鋒なのに、イベントを辞めてくれと言った安倍晋三首相に従うなんておかしいですよ。春のセンバツは、入場料収入が約3億円で、経費は約2億円かかる。無観客で開催すると、2億円の赤字になるわけで、それで中止したのかという見方もあります。赤字になっても、単年度の会計だけで考える必要はないと思いますね」

 3月開催予定だった高校スポーツの全国選抜大会は全て中止になった。野球だけが無観客開催を目指していたことで、世間から厳しい声が上がっていたとも言われるが、

「世の中が中止しなければいけないという“空気”になっています。まさに同調圧力です。これがあるから、みな不安になって中止してしまうのです。この同調圧力は、最もたちの悪いシロモノです。このおかげで日本はアメリカと戦争を起こしたのですから」

 猪瀬氏は1983(昭和58)年、日本がどのようにしてアメリカとの戦争に突入していったのか、史実をもとに分析した『昭和16年夏の敗戦』(世界文化社)を出版している。

「この本では、官庁や軍人、民間人の30代のエリート中のエリートを集めて作られた総力戦研究所について書いています。総力戦研究所は、アメリカと戦争したらどうなるかシミュレーションを行ったのです」

 第一次世界大戦以後、戦争は軍事力だけでは勝利できない、武力対武力の戦いの他に、あらゆる手段を尽くして相手国を屈服させるという「総力戦」の時代になった。戦争を続ける上で不可欠な石油の備蓄なども大きな戦力となる。

「シミュレーションの結果、日本は緒戦では勝利を見込めるが、長期戦になると、アメリカとの国力の差が出てきて追い詰められ、最後にソ連が参戦して敗北する、とまさに現実と同じ分析をしているのです。日米開戦は何としても避けなければならないという結論が出ているのに、大本営はそれを採用しなかった。何故か? 当時、戦争をするという空気、つまり同調圧力があったからです。昭和天皇は戦争はやるべきではないとし、その意を受けた東條英機総理大臣は開戦をとめようとしました。けれども大本営側は戦争をやるべきだと強く主張した。政府と大本営はスッタモンダして、両者とも譲らなかった。そして12月8日の開戦の1週間前、政府と大本営の連絡会議で、互いにデータを出し合い、企画院が出したデータが採用され、戦争へ突入したわけです」

 当時、総力戦研究所とは別の企画院という組織が、石油の需給バランスをシミュレーション。こちらは戦争を遂行するために、つじつま合わせの数字を提示し、日本はこの数字をもとに開戦に踏み切ったという。

「同調圧力で、310万人の日本人が犠牲になりました。戦争を招いたのに、何の反省もされていません。その悪しき風潮が今日まで延々と続いています。もういい加減、断ち切るべきではないでしょうか」

 戦前と変わらないとは、困ったものである。

週刊新潮WEB取材班

2020年3月16日掲載

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