「コロナばらまき男」を愛知県警が捜査開始 意外に高い“逮捕、起訴のハードル”

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逮捕、起訴は可能なのか?

 いや、それでは世論は納得しないかもしれない。何しろツイッターでは《警察も動くの遅いよ、威力業務妨害容疑?傷害罪じゃないの?》、《威力業務妨害というより、傷害罪を適用できるだろ》という声もあるからだ。

 傷害罪は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められている。ツイッターでは厳罰を求める声も見受けられる。それこそ《蒲郡でコロナばらまいた奴死刑にしてくれ》という極論を書き込む人もいる。

 若狭弁護士は「威力・偽計業務妨害罪に比べると、傷害罪の適用はハードルが高いのも事実です」と解説する。

「まず、男性が『コロナウイルスをうつすかもしれない』、『ウイルスをうつしても構わない』と考えていたことを証明する必要があります。次に男性が女性に感染させた明確な因果関係も必要でしょう。被害者の女性が店に出勤してから、感染が明らかになるまでの行動を詳らかにし、男性しか感染できないことを明らかにしなければなりません」

 もし店舗で感染が拡大したら――関係者にとっては迷惑な想定なのはお許しいただきたいが――傷害罪の適用も実現性を増すという。例えば、合計で3人の女性が陽性となり、男がうつした可能性が濃厚という場合だ。

「現状のままで裁判になったと仮定しますと、弁護側は『女性が店内で感染したという明確な証拠がない』、『店以外の場所で感染した可能性も否定できない』などと主張すれば、検察側は反論に苦しむかもしれません。傷害罪の適用を求める世論があることは承知していますし、気持ちも充分に理解できますが、簡単にはいかない可能性があるのです」(同・若狭弁護士)

 今後の焦点は、男が逮捕されるかどうかだ。愛知県警が男の身柄を拘束する可能性は決して低くないという。

「世論は逮捕を期待しています。愛知県警も意識しているでしょう。どうしても身柄が拘束できないという場合でも、書類送検でもいいので事件化し、捜査機関として断固とした姿勢を示すことが重要です。今、日本国内が新型コロナに苦しめられている状況を考えれば、男性の行動は容認できるものではありません。社会的通念を、あまりに逸脱した行動です」(同)

 一方で、地検が起訴できるかというと、こちらもハードルは高いという。

「男が犯した罪を勘案すると、地検が立件に踏み切る可能性は低いと言わざるを得ません。だからこそ、私は逮捕することが重要だと考えます。他人に新型コロナを感染させるような行為は断固として許せない、という姿勢を見せることが必要です」(同)

「一罰百戒」という言葉もある。『広辞苑 第七版』(岩波書店)は「一人を罰して、多くの人の戒めとするところ」と定義している。愛知県警に期待されている役割と言えるだろう。

 更にツイッターでは《コロナばらまくとか言ってた蒲郡のど阿呆は、民事と刑事の両方で締め上げたれ》と民事訴訟に期待する声もある。

 だが、男が訪れた2店舗だけでなく、近くの飲食店などは、今も風評被害に苦しんでいる可能性が高い。世論は同情的だ。蒲郡市の飲食店が一致団結して原告になっても、応援する人は大いに違いない。

「もちろん2店舗は明確な被害を受けている可能性が高いので、損害賠償を求める民事訴訟は可能だと思います。しかしながら、他のお店となると、たとえ隣接する店舗であっても、民事訴訟は難しいでしょう。今のところ、新型コロナウイルスは接触感染するものであって、空気感染の実例は報告されていません。損害賠償を求めるためには、男性が店に入ったという事実が必要だと思われます」

週刊新潮WEB取材班

2020年3月15日掲載

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