最大のミステリー「マレーシア航空370便」行方不明事件から6年 根強い中国陰謀説

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機長の自殺説

 事件の“真相”として、当時から、また現在に至るまで、根強く語られているのが「機長の自殺説」である。まずはこの機長とも関わってくる、事件発生当時の筆者の取材活動について紹介したい。

 MH370便が消えたという一報がマレーシアで報じられたのは、現地時間3月8日の午前9時過ぎだった。その日筆者は、人民正義党(PKR)の党大会会場へ赴いていた。カリスマ野党指導者であるアンワル・イブラヒム元副首相に、インタビューを行うためである。この前日、マレーシア上訴裁判所は、彼に対し同性愛容疑で禁錮5年の判決を下していたのだ。

 有罪判決を受けた翌日だったが、会場を訪れたアンワル氏は、少し疲れた様子ではあったものの柔和な笑みを浮かべ、庶民派らしく党本部の席には座らず、支持者に囲まれるように一般党員の席に静かに座った。「お話を聞いてもいいですか?」と尋ねた筆者にも、「大会が終了してからなら」と微笑み、壇上に立つ執行部の国会議員の演説に聞き入った。

 もちろんこの時はまだ、マレーシア航空機をめぐる大惨事が発生していたこと、そしてこのアンワル氏が、その「渦中の人」になるとは想像もしていなかった。

 事件は、大会の最中に知られることになり、アンワル氏ら野党首脳陣も対応を迫られ、そそくさと会場を後にした。当然、この時はインタビューが叶わず、アンワル氏と再会したのは、1週間あまりのちの17日になってからのことだ。

 当初のインタビューの目的は、もちろん有罪判決についてアンワル氏に語ってもらうことにあった。だがこの時点で、取材主旨は大きく変更せざるを得なかった。なぜなら、MH370便の機長が、熱烈なアンワル支持者であることが判明したからだ。

 事件の発生直後こそ、冒頭で紹介した「おやすみなさい。マレーシアン370」は副操縦士の言葉だとされていた。だが、やがてその後に発言者が、ベテラン機長のザハリ・アフマド・シャー氏だと判明。捜査線上にも、ザハリ氏の「自殺説(ジハード)」が有力な動機として浮上していた。

 アンワル支持者であったザハリ機長は、有罪判決に大きな失望感を抱き、判決の数時間後にあたる8日未明に発った乗員乗客を道づれに抗議の自殺を図った――というわけだ。この説は今にいたるまで“最有力”なものとされており、今年2月には、事件発生当時の豪州首相だったトニー・アボット氏が「マレーシアの首脳が『機長の自殺だった』とほのめかしていた」と豪州メディアで明らかにしてもいる。

 かくいう筆者も、この事件で日本のメディアに執筆する際やテレビ出演時には「機長の自殺」を有力な説と紹介してきた。アンワル氏の判決日に合わせるようにして、機長がフライトのシフトを同僚と代わってもらっていたことも、関係者への取材で明らかになってもいたからだ。

 そうした状況で、渦中の人・アンワル氏に、日本メディアでははじめて独占インタビューできる機会に恵まれたわけである。

 インタビューの全容は、JBpressに掲載された拙稿『渦中のアンワル氏、消えたMH370便機長の自殺説について語る』をご参照いただきたいが、この取材を通し、アンワル氏は機長のザハリ氏と面識があると認め、さらに彼と遠戚であることを初めて公表するに至った。ただし、「ザハリ機長は人格者で乗客の命を奪うようなことは決してない」と、自身やザハリ機長と事件との因果関係は否定した。さらには、ザハリ機長の“ジハード説”は、(アンワル氏を有罪に導いた)与党・ナジブ政権の政治的策略だと厳しく非難してもいた。

次ページ:その後の調査では…

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