「世界一受けたい授業」で話題「わかり合えない人とどう付き合う?」 カラテカ矢部とブレイディみかこが語る

エンタメ 文芸・マンガ 週刊新潮 2019年12月12日号掲載

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 異例の受賞が続き、累計31万部となったノンフィクション『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者で、「世界一受けたい授業」にも出演したブレイディみかこさんが、アニメ化で話題の『大家さんと僕』の著者・矢部太郎さんと語り合った。

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ブレイディ はじめまして。矢部さん、わたし、ずっとお会いしたかったんです!

矢部 僕もです! たくさん受賞されて、おめでとうございます。

ブレイディ ありがとうございます。でも、今日はわたしが矢部さんの本を褒めちぎろうと思って来たんですから! 帯に「ほっこり」とか書いてあると、手に取らない層もいるでしょう? わたしもそのひとりで(笑)。でも、実際に読み始めたら一気読みでした……矢部さん、アキ・カウリスマキとか、好きでしょ?

矢部 あ、はい、好きです。

ブレイディ やっぱり! わたしもカウリスマキとかジム・ジャームッシュとかヴィム・ヴェンダースとか、1980年代に小津チルドレンって言われた監督の作品が好きなんです。動きとかコマ割りとか、すごくスタイリッシュじゃないですか。矢部さんの本を読んでいると、彼らの作品を思い出すっていうか。おしゃれでクールなんですよね。

矢部 ありがとうございます。「ほっこり」は新潮社の方が書いてくださったから、そうか、そうだなあと(笑)。カウリスマキの作品だと、登場人物が何も喋らないまま2〜3分カメラを回していたりしますよね。ああいう感じが好きで。

ブレイディ そうそう、すこしユーモラスな感じもあって。

矢部 そうです。いやー、うれしいなあ。

ブレイディ ヴィム・ヴェンダースの『ベルリン・天使の詩』、めっちゃ好きなんですけど、コートを着たおっさんふたりがビルの上で笑って話したりしているじゃないですか。矢部さんの3冊目(『大家さんと僕これから』)のカバーはあれだと思いました。

矢部 えっ! まさにああいうふうに、新宿の天使の話のように描きたかったんです。でも、それを指摘されたのは初めてです。

ブレイディ やった! 矢部さんの漫画って映画的だなあ、と思っていたんです。それを伝えられて良かった。

矢部 どうしよう、むちゃくちゃうれしいです。けど、なんか恥ずかしいな。全部ばれてる気がして……。僕にも言わせてください。ブレイディさんを初めて知ったのは、荻上チキさんのラジオ番組「Session-22」でした。『いまモリッシーを聴くということ』の著者として出演されていて。

ブレイディ はい。モリッシーはイギリスのバンド「ザ・スミス」のボーカルで、サッチャー政権時代、不況にあえぐ若者たちから圧倒的に支持されたロックスターでした。

矢部 あのときラジオで、イギリスの学生がデモでザ・スミスの曲を歌っているっていう話をされていたじゃないですか。

ブレイディ そうです! 「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」ですね。ずっと欲しいものを手に入れたことがなかったけど、ずっと思いが叶ったこともなかったけど、プリーズ、プリーズ、プリーズ、今回だけは望むものを手に入れさせて……っていう曲。授業料の値上げに反対した大学生たちが、プラカードを掲げた雪の夜のデモで、あの曲を歌い始めたんですよ。思い出しただけで泣けてくる。

矢部 静かな歌ですもんね。アジテーションぽくなくて。

ブレイディ そう、切々と歌った曲だからよけいに伝わるんですよね。

矢部 その話をラジオで聞いて、モリッシーにがぜん興味を持って、本を買いにいったんです。

ブレイディ そうだったんですか!

矢部 で、『大家さんと僕』はあの曲を聴きながら描いていたんです。

ブレイディ ええっ?

矢部 カウリスマキの映画もそうですけど、あの曲、短いからすぐ終わっちゃうじゃないですか。で、また聴きたくなる。こういう曲みたいな本を描きたいな、と思っていました。ブレイディさんの本を読んで、モリッシーが好きになったんですよ。

ブレイディ えー、うれしい……って、わたし、はしゃぎすぎですね(笑)。

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