【新型コロナ】クルーズ船の死者は人災でも聞こえてこない「遺族」の怨嗟

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「助かったはず」

 しかも単に死者が誰なのかが隠されているだけではない。同月23日には豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」から3人目の「乗船死者」が出たが、「80代の男性」というだけで、乗客と乗員のどちらなのか、それどころか新型コロナウイルスに感染していたのか否かすら、「遺族の意向」を理由に公表を拒んだのである。

 全国紙の社会部デスクが舌端火を吐く。

「厚労省は、死者情報以外でも、例えばダイヤモンド・プリンセスに今現在、何人乗っているのかを訊(き)いても『わからない』と答える。お粗末極まりない!」

 別のメディアの社会部記者も嘆息する。

「感染者のひとりが陽性だと分かる直前に買い物に出ていたと明かされ、感染ルートを探る意味でとても重要なのでどこのエリアで買い物したのかを尋ねても、肝腎のその情報も厚労省は教えないんですよ」

 メディア論が専門で元上智大学教授の田島泰彦氏が「匿名死者」問題について苦言を呈する。

「遺族や関係者が望まないからという口実で実名を発表しないことは、行政の失態や過ちを伏せるための隠れ蓑になってしまう危険性を孕(はら)んでいます。プライベートな話ならともかく、今回は極めて公的で重大な問題です。『名無しの権兵衛』ではなく、固有名詞を持った個人の人生の最期がどうだったのか。それを記録する意味や重さを大事にすべきだと思います」

 さらに、やはりダイヤモンド・プリンセスの死者である84歳の女性は、2月5日に発熱し、下船できたのは実にその7日後だった。他の体調の悪い人は、優先的に下船の措置が講じられていたのにである。彼女も、もっと早くしっかりとした医療施設で治療を受けられていれば助かったのではないか、まさに人災によって命が奪われてしまったのではないか……。遺族がそうした怨嗟の念を持っていたとしても何ら不思議ではないのだ。実際、

「ダイヤモンド・プリンセスで亡くなった方は明らかに政府による人災です」

 とした上で、前出の上氏はこう指弾する。

「いずれも初期段階では発熱していなかった高齢者が、船内に閉じ込められたことによって亡くなってしまった。厚労大臣のクビが飛んでもおかしくない失態と言えます。とりわけ『放置』された84歳の女性は早期にPCR検査を行い、現在、一定の効果があると言われている抗HIV薬を投与すればかなりの確率で助かったはずです。政府はこの責任を追及されることを恐れていて、それを避けるために、身元などの不都合な情報を開示しないと見られても仕方がない」

 怒りに打ち震える遺族の声が、厚労省という「バイアス」を通すことで国民に届かないようにされている――。もしそうだとしたら、今後、政府への批判が炎上するのは「猛火」を見るより明らかであろう。

週刊新潮 2020年3月5日号掲載

特集「『感染者百万人』という脅威」より

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