【新型コロナ】クルーズ船の死者は人災でも聞こえてこない「遺族」の怨嗟

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 熾火(おきび)のように朧(おぼろ)げに見えた炎は火柱と化し、あっという間に焦熱地獄を招きつつある――。日本中を混乱に巻き込んでいる新型コロナウイルスという名の「猛火」。荒ぶる紅蓮を前に、我々は可能な限りの予防策に奔走しているものの、感染者は燎原の火の如く増え続けている。哀しいかな、それも当然なのかもしれない。なにしろ、「消火」に必須の「火元」の情報が開示されていないのだから。

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 米国、イスラエル、タイ……。日本への渡航回避措置をとる国が増え、目下、我が国は中国に続く「世界の嫌われ者」となっている。未知のウイルス相手の解なき戦いとはいえ、政府はもっと「善戦」できたのではないかとの思いは拭い去れない。新型ウイルスという天災に、厚労省の誤導が人災として火に油を注いだのではないか。そう感じざるを得ないからである。

 その証拠に、2月16日に行われた専門家会議では「感染早期」との認識が共有され、23日に至ってもまだ加藤勝信厚労相は次のフェーズである「感染拡大期」であることを認めなかった。畢竟(ひっきょう)、さらにその次の段階である「感染蔓延期」への移行段階になどありはしないというわけだ。

 しかし、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏はこう分析する。

「今の日本が拡大期に突入しているのは明らか。感染経路が特定できていない新型肺炎の患者が増えているからです。つまり、水際対策が功を奏することはなく、いつ誰が感染してもおかしくない状況にある。インフルエンザには毎年流行シーズンに1千万人が感染しますが、新型コロナウイルスも蔓延期の前段階に来ていると見るべきです」

 ではなぜ、「表面上」の新型肺炎の感染者数は3桁で留まっているのか(2月25日時点)。

「検査を受けられている人が限られているからです。軽症や無症状で検査を受けていない人や、受けられていない人が大勢いると考えたほうが自然。陽性患者を見ても約8割は軽症です。また2009年に流行した新型インフルエンザの感染者数は、7カ月で1千万人を超えたとのデータがあります。『隠れコロナ患者』も現時点で100万人程度いたとしてもおかしくありません」(同)

 政府の認識の甘さが伝わってくるが、それは「情報公開」の面でも表れていて、まるで何かを隠蔽する狙いでもあるかのように「火元情報」に蓋をしているのだ。武漢で亡くなった方も含め「邦人死者」は複数出ているが、政府は誰一人としてその身元を詳(つまび)らかにしていないのである。

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