新型肺炎で「文在寅」弾劾 “習近平に忖度するな、中国からの入国を全面禁止せよ” と保守

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2020年2月28日掲載

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「習近平3月訪韓」で日本に勝つ

――そもそもの質問ですがなぜ、韓国は「中国全域から入国禁止」としなかったのでしょうか。

鈴置:やはり世間体を気にする中国を怒らせ、習近平・国家主席の訪韓が不可能になる、と考えたからです。日本と異なり韓国では、保守も含めほとんどの人が訪韓に賛成。文在寅政権は3月訪韓を実現し、4月15日の総選挙の追い風に利用するつもりでした。

――3月でなくとも、選挙直前の4月上旬でもよいのでは?

鈴置: 確かにその手もあります。が、習近平主席の日本への国賓訪問が同じころに予定されています。4月上旬の訪韓だと「訪日のついでに訪韓した」というイメージが強くなってしまう。

「東京訪問の後、北京に戻らずにそのままソウル訪問」というスケジュールになれば、選挙対策としては完全に逆効果です。「ソウル→東京」という順番は日本が許さないでしょうし。そこで文在寅政権は「日本よりも早い3月」を強力に望んだのです。

 いずれにせよ、習近平訪韓を実現するために、中国を怒らせる「中国全域からの入国禁止」なんて、とてもできないのです。保守派もこれを分かっていて「中国全域からの禁止」を求めているわけです。

――でも、中国も韓国からの訪問客を隔離し始めました。

鈴置:ええ、そこもポイントです。丁世均(チョン・ セギュン)首相は「相互主義」を懸念していました。「中国全域からの入国を禁止すると、中国が報復措置として韓国からの入国禁止を発動する」との懸念です。

 今となれば「相互主義」を掲げて「中国全域からの禁止」に出るやり方も浮上してきました。が、それでも2つ問題があります。日本より先に「中国全域からの禁止」を実行すれば、やはり中国の怒りを買いかねない。中国は韓国を属国とみなしているからです。

 日中両国は4月上旬の国賓訪問をまだあきらめていませんから、日本はなかなか「中国全域からの禁止」に踏み切れない。だから韓国政府は習近平訪日の行く末を異様に熱心に見守っています。

 もう1つの問題は、清水の舞台から飛び降りるつもりで「中国全域からの禁止」に踏み切ったとしても、保守からの攻撃は収まらないことです。

 むしろ、「なんで今ごろになって」「やるなら早くすればよかったではないか」と、政権批判の火に油を注ぐ可能性が強い。これは安倍晋三政権にとっても、同じ悩みでしょうけれど。

反政府運動を主導する牧師を逮捕

――文在寅政権は八方ふさがりですね。

鈴置:政権側には逆境をひっくり返す手があります。政権打倒運動の武器である大衆集会・デモをつぶせばいいのです。

「文在寅下野汎国民闘争本部」を率いてソウルの中心部、光化門広場で大型の反政府集会を主宰していた有名な全光焄( チョン・ガンフン )牧師が2月24日に逮捕されました。容疑は選挙法違反――総選挙の公示前に大衆の前で特定の政党への支援を訴えた――です。

 韓国保守の指導者、趙甲済(チョ・カプチェ)氏は、自身が主宰するサイトで「逮捕は表現の自由を保障した憲法に違反する」「チョン・ガンフン牧師の口封じだ」と強く抗議しています。

大集会に冷ややかな朝鮮日報社会部

――かえって政権への反発を呼びますね。

鈴置:確かに保守からは。でも、普通の人がどちらについていくかは微妙です。新型肺炎が流行するというのに、感染症を加速しかねない大型集会を開く保守に対し、冷めた目も向けられているからです。

 チョン・ガンフン牧師主催の2月22日の光化門での集会を報じた朝鮮日報の記事の見出しは「『武漢肺炎よりも愛国』とソウル市の勧告にも拘わらず集会を強行…市民らは『冷やか』」(2月22日、韓国語版)でした。

 感染拡大を防ぐため、としてソウル市は集会を中止するよう勧告しました。一方、チョン・ガンフン牧師は「屋外では感染しない」と反発しました。

この記事は双方の主張を報じながら、「このご時世にこんな大型集会を開くのは非常識」との市民の声を取り上げ、見出しにも「冷ややか」をとったのです。

 朝鮮日報の論説委員会は保守の立場を強力に打ち出し、プレーヤーとして政争に加わっている感があります。しかし、街の声を拾う社会部は「こんなご時世に政争か」と政界を突き放して報じたのです。

 そもそも「4月15日の総選挙ができるのか」という声があがるほどに韓国は新型肺炎で混乱しています。そんな中での政争を後の世がどう見るのか、知りたい気がします。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

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