澤田秀雄(HIS会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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店舗で売る時代は終わった

佐藤 澤田さんはそこから会社を作られて、一代で日本を代表する旅行会社に育て上げられた。その成功の秘訣は何だったとお考えですか。

澤田 うーん、何でしょう。やはりお客さまとスタッフを大切にしてきたということじゃないでしょうか。社員の「やる気」をいかに作り上げるかが一番大切だと思います。10人20人だったら僕が頑張れば済むんですが、2万人近くになったら、一人一人が「やる気」を持って、自分でものを考えてもらわないと動いていかない。その環境作りじゃないでしょうか。

佐藤 私は外務省でいろいろな仕事をしてきました。性格に起因するのだと思いますが、20人くらいの小さな精鋭チームをまとめ上げるのはできるのですが、それがいつも周囲との軋轢を生んでしまうんです。

澤田 それはみんな優秀すぎるからじゃないですか。

佐藤 いやいや、大きな組織作りに向かないからです。

澤田 30人くらいまでは、だいたい全部自分で見られるんですね。これが300人になると見られない。千人、2千人となるとまた違ってくる。その時によってやり方を変えないといけません。300人になったら、総務とか人事とか経理とか、組織として必要なものを整備しなくてはならない。さらに千人単位となると、そのレベルでは幹部を養成して任せていくことになります。

佐藤 旅行業界は伝統ある老舗の企業がいくつもあって、その中で生き残っていくのは大変じゃなかったですか。

澤田 スカイマークという格安航空会社では失敗しましたし、大手さんに色々叩かれたり仕入れを止められたりもしました。ただお客さまが我々の味方でしたから、押さえつけるわけにはいかなかったみたいですね。

佐藤 今、旅行業界は大きな変化の只中にありますね。旅行は、自分で宿も飛行機も手配するFIT(海外個人旅行)になりましたし、OTA(オンライン旅行社)を使うのが当たり前になった。

澤田 店舗で旅行商品を売る時代は終わったと思っています。そうすると、現在の店舗をどうするか、ということになりますね。いろいろアイデアはあるのですが、例えば、今、約270ある海外店舗には、商社的な機能を持たせようとしています。

佐藤 それは面白いですね。

澤田 もう何十年とそこに店舗がありますから、現地のことはよくわかっている。考えてみれば、三井さんや三菱さんといった商社の店舗網よりもはるかに多いんです。だから本気で情報を集め始めれば、ひょっとしたら外務省より多く取れるかもしれない。我々は旅行業ということで警戒されませんから。

佐藤 外務省は国家政策決定に必要か否かという観点で情報を集めますから、偏っています。一般の会社や旅行者に重要な情報とは一致しない。

澤田 そうでしょうね。

佐藤 ただ官僚として仕事を作らないといけませんから、ここに泥棒が出たとかスリがいるとか、そうした情報を集めてきて仕事ぶりを示します。それで海外の危険度1から5のランクづけをしますから、だいたい危険度4とか5になってしまう。

澤田 あれはちょっと高く出し過ぎだと思うことがありますね。

佐藤 危険としておけば何かあった時に責任を追及されずにすむ。官僚的な保身の論理です。

澤田 私たちは商社といっても、貿易だけでなく、現地へ進出するお手伝いとか、プラントを作る際の手続きとか、いろいろな仕事があると考えています。一方で国内から、地方の物産をぜひ海外で売っていきたいというような要望もあるんですね。

佐藤 海外店舗は、ほとんど現地の方ですか。

澤田 当初は日本人で展開しましたが、今はどこも現地の方が多いですね。例えばベトナムには400~500人いますが、日本人は十数人です。トルコは、支店長がトルコ人ですね。どんどんインターナショナル化しています。

佐藤 グループ全体でいうと外国人の比率はどのくらいなのですか。

澤田 1万8千人中、3千~4千人くらいかな。これからどんどん増えていくと思いますね。

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