【新型コロナ】「病院船」配備で高木美保のコメントは不評 実現性を海自OBに聞いた

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「自衛隊の軍備増強」を懸念する小池議員

中谷:そういうニーズがあれば対応できるということですよ。

小池:いやいやいや、中谷さんの話を聞くと、自衛隊の船として病院船を作ろうという議論?

中谷:そのほうが無駄がないじゃないですか。

小池:そうなってくると、こうね……

反町:運用上の無理がないという意味で仰っている?

中谷:そういう時に自衛隊を活用すればいいじゃないですか。

小池:それは、あの、自衛隊の、この、災害とか感染症を口実にして、自衛隊の軍備を強めることに……。

中谷:誰もそんなこと思っている人いませんよ。

小池:だってそうじゃないですか。

反町:予算の枠内で……。例えば今、年間5兆の防衛予算を、病院船代で新たに追加するんですけど、予算の枠内でやる限り意味においてはOKという意味ですか、それは?

小池:病院船にお金をそういった形で使うのであれば、まずもっとやることがあるでしょう、と。国際的な感染症対策の国立感染症研究所の予算をね、3分の1も削ると、保健所をどんどん減らすと、病院だってこうね、ぎりぎりで、ベッドが空いていないような状況になっていると、医者そのものも足りないと。だったらそういったところにお金を使うのが、まず最優先なんでなんじゃないですかと。それでなんか、病院船で、しかも自衛隊だって言われるとね、ちょっと話が違いますね。

中谷:いや、いつも自衛隊……。病院船の話、出るんですけど、じゃあ、何もない時どうするか、遊んでいるのかということで、やはり自衛隊の船が、そういうのに対応できるように、【編集部註:聞き取れず】ということできてますので、日頃からそういう訓練もしているし、やっぱり保有していないといざという時、使えませんからね、あの、そういった意味ではしっかりと対応をしつつ、病院船の機能も果たしているということですよね。

 番組の引用は、以上だ。3人の議論を「高木さんが指摘するように意味がない」と同意する方も、「想像していたより充実している」と否定する方も、それぞれいらっしゃるだろう。

 だが、高木の要約が乱暴で、ミスリードを招く可能性が決して低くないという事実は、やはり否定できないのではないだろうか。

本物の専門家に取材を依頼

 それでは、高木のような“芸能人の素人コメンテーター”ではなく本物の専門家は、病院船の議論をどのように受け止めているのだろうか、金沢工業大学虎ノ門大学院教授で元海将の伊藤俊幸氏に取材を依頼した。

「病院船が必要だという提言は、多くの日本人が理解できるものでしょう。しかしながら実現となると、決してハードルは低くありません。2013年に内閣府が試算を発表しましたが、10の手術台を備え、500人の患者を収容する『総合型病院船』を建造するとなると1隻300億円。2隻だと600億から700億円が必要という試算結果になりました。さらに毎年維持費が2隻で50億と試算されています。災害が起きず稼働しない状態もあるわけですから、広範な有権者の理解を得られるか、なかなか難しいものがあると思います」

 ちなみに、最もコストが安いとされた、手術台がゼロ、患者収容数が300人という「慢性期病院船」でも1隻160億円が必要だという。病院船とは相当に高額なのだ。

 そのため、共産党の小池議員が番組で主張した「民間が建造して運営も行う病院船」はコストの調達を考えると、かなり困難な事業であることが分かる。現実的に任せられる組織となると、海上自衛隊以外には存在しないというのが正直なところだろう。

「現在、最も実戦経験が豊富なのは米軍で、米海軍は2隻の病院船を稼働させています。ところが負傷兵の輸送手段が豊富になったことなどから、意外に実戦に参加することは少ないのです。現在、米軍の病院船は途上国を中心に寄港し、医療サービスを無償で提供しています。つまりアメリカの外交政策を担っているのです。こういった活動の一つにパシフィックパートナーシップという国際協力プログラムがあり、自衛隊も輸送艦や医官などを毎年2カ月間くらい派遣しています」(同・伊藤教授)

 医療施設の充実した護衛官「いずも」をダイヤモンド・プリンセス号の救援にあたるというミッションも、一筋縄ではいかないようだ。

「政府や海自が想定している災害派遣時の医療支援は、外科的なものです。『いずも』には手術室が1室しかありませんから、陸上自衛隊の野外手術システム(車両)を搭載して、地震や津波といった天災などで負傷された国民の治療を行うのです。今回のような感染症への対応は想定しませんでしたし、率直に言って、そもそも海上自衛隊の艦艇が対応する必要があるのかという問題もあります」(同・伊藤教授)

 自衛隊なのだから、生物化学兵器への対応は想定している。だが、この場合、「船の中を感染させない」ことが最重要事項となる。

「核兵器も含めたNBC兵器防護の基本は、艦外での除染です。他者に罹患する恐れがある生物兵器で負傷した隊員がいた場合は、一刻も早く陸上自衛隊の特殊武器防護隊に送り届けることが最優先になります。艦内に入れて治療することは想定外です。能力から言えば、護衛艦『いずも』にダイヤモンド・プリンセス号の患者を受け入れ、治療を行うことは可能でしょう。防衛大臣が命ずれば、自衛隊は任務を完遂します。現場が動揺する可能性はありますが、隊員が罹患するリスクと、自衛隊の本来任務への影響との兼ね合いの中、防衛大臣が決断されるべき事案ということなのです。」(同・伊藤教授)

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