川崎通り魔殺人 好みの女性が死ぬ間際に見せる苦悶の表情が見たい…被告が法廷で語った“言い訳”

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表情がみたい

 弁護側冒頭陳述で弁護人は「一度目の腹部への刺突行為は、どこを狙おうかという認識はなく殺意は有していない。犯行には計画性はなかった」と主張。曰く「事件の日は同僚である義兄の行動に強いストレスを感じており、そのイライラを抑えるために母に話を聞いてもらおうと実家に行ったが、夜遅かったために眠っており、実家にあった包丁を持ち帰ることにした。人を刺すつもりはなかった。見かけた被害者が好みのタイプであり、苦悶する表情が見たいとは思ったが、具体的にどんな行為をしようとは決めていなかった」という。

 同月21日に行われた第二回公判の被告人質問で、鈴木被告は“女性の困惑・苦悶する表情が見たい”という願望について詳細を語った。服役中に患った脳梗塞の後遺症により、ゆっくりとした語り口だ。

弁護人「事件の当日、女性の表情が見たかった?」
鈴木被告「……はい」
弁護人「トンネルの反対側から歩いて、歩いてくる被害者の顔が見えた時、何か思った?」
鈴木被告「被害者の、困惑と、苦悶する顔が見たいと思いました」
弁護人「どうして?」
鈴木被告「……その日1日、ストレスとかあって……。ただ、驚かすだけじゃすまない……その表情を見たい……右手に持ってた出刃包丁を腰に構えたのを、前に突き出しました」

 鈴木被告によれば「殺意のない」刺突行為により、仰向けに倒れた黒沼さんのもとから立ち去ろうとした。ところが、包丁に指紋がついていること、以前に万引きで逮捕された際に指紋を採取されていたことを思い出し、包丁を抜くために再び黒沼さんに近づいたところ、黒沼さんから股間を蹴られたのだという。そして、

「人を刺しといて、言うのも失礼かもしれないけど、腹立って、腹部に刺さった包丁を力ずくで抜いて、胸に突き刺しました」(鈴木被告)

 すぐさま車に戻り、帰宅した鈴木被告は、黒沼さんの体から引き抜いて持ち帰った包丁を台所の水道で洗い、自分しか使わない引き出しの奥にそれを隠した。朝方、テレビを観ると、自分の起こした事件が報道されていたのだそうだ。

弁護人「それを観てどう思った?」
鈴木被告「……まず思ったのは、この事件は俺がやった。右手を、胸の近くまで持ってって、ガッツポーズしました。犯人を、自分しか知らないという気持ちと、忘れない、苦悶に歪んだ顔……」

 そして、前日から子供を連れて実家に帰省していた妻を迎えに行くため、再び車に乗り、鈴木被告は“いつもの日常”に戻った。

 対する検察官からの被告人質問では、“好みの女性が困惑・苦悶する表情が見たい”という鈴木被告の、さらなる冷酷さが浮き彫りになる。

検察官「腹部刺した時に被害者はどんな表情をしていましたか?」
鈴木被告「かなり歪んでる……表現しようがない……」
検察官「調書には『苦痛のあまり目をぎゅっと閉じ、顔が中心に集まったような、くしゅっとした表情』と語っていますね。刺した時、どう思った?」
鈴木被告「そのときは、正直、すっきりしました。苦悶で歪む顔ですね」
検察官「思ってた通りの表情でした?」
鈴木被告「……想像以上」
検察官「で、仰向けに倒れた被害者が足をバタバタさせていて、右足が股間に当たったんですね。そのときどう思った?」
鈴木被告「……なんだこの野郎……もう一回刺さないとダメだな、と……」
検察官「『刺してるのに元気だな』とも?」
鈴木被告「……当時はそう思った……」

 殺害行為により欲望を満たした鈴木被告だったが、わずか半年後に、別の通り魔事件を起こしたことは前述の通りだ。

検察官「結局、好みの女性の苦悶する表情が見たいとまた殺人未遂事件を起こしたんですか?」
鈴木被告「はい」
検察官「その殺人未遂事件で捕まってなければ、繰り返してたかも?」
鈴木被告「まあ、そうです」
検察官「今でもそう思う?」
鈴木被告「まあ、想像としては、そうだと思います」

 服役中に病に倒れたことから「命の大切さを知った」と、犯行を告白した理由を語った鈴木被告。しかし、同時に死刑になるのも怖くなったのか、腹部への刺突行為の殺意については、最後まで認めることはなかった。別期日で証人出廷した医師は「快楽殺人者である可能性が高い」と分析した。

 同年12月13日、横浜地裁は鈴木被告に懲役28年の判決を言い渡し、いずれの刺突行為についても殺意を認定した(求刑・無期懲役)。最後に景山太郎裁判長は「裁判員と我々からメッセージを」と前置きし「あなたのどこに問題があって、そんなことになったのか、しっかり見つめてほしいんです。長い服役で反省が深まり社会復帰することを祈っております」と語りかけた。これをどう受け止めたのかは分からないが、鈴木被告は判決を不服として控訴している。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
傍聴ライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)『つけびの村  噂が5人を殺したのか?』など。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年2月17日掲載

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