新型コロナ対応に「人権」の壁 日本の脆弱な危機管理能力が露呈

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「トイレや風呂が共同」

 加えて、「隔離先」である勝浦ホテル三日月の「相部屋問題」に懸念を示すのは、国際医療福祉大学教授(感染症学)の松本哲哉氏だ。

「新型コロナウイルスは無症状の人からうつる可能性が指摘されていたにもかかわらず、帰国者を相部屋にしてしまったのは不適切。緊急時とはいえ、できれば他の施設も探して個室で収容する対策を取るべきだったと思います」

 実は、1月31日に羽田に着いたチャーター機の第3便でも、受け入れ先が二転三転していたと、全国紙の政治部記者が明かす。

「帰国当日の午前、菅官房長官は記者会見で“茨城県の筑波産学連携支援センターなどを中心に調整中”と発言、現場に記者が急行しましたが午後になっても誰も来ない。施設のトイレや風呂が共同であることが分かって、急遽変更したそうです」

 隔離場所の選定も混乱続きだが、その滞在期間も発生直後の段階から差が見られた。他国は「最低でも2週間」なのに対して、日本は「最長2週間」。つまりは、行動を制約する法的拘束力がない以上、帰国者の“自由意志”に頼るしかないのだ。

 先の松本氏はこうも言う。

「帰国者には再検査で陽性反応が出た人もいる。その患者さんに接触した方なら、さらに隔離を続け経過を見守る必要が出てくるケースもあると思います」

 憲法学が専門で日本大学名誉教授の百地章氏の話。

「医療の専門家が一定期間の経過観察を世界的な指標とするなら、それに従うのが自然です。しかし、日本の現行法では仮に“もう大丈夫だから”と、たった1日で宿泊施設を去る人がいても止めようがない。大前提として、憲法で保障された居住や移転の自由などの基本的人権は配慮されるべきですが、同時により多くの国民の命を守ることも大事。その当たり前のバランスをどう取るかを、もっと国は考えて然るべきです」

 国会に目を転じれば、一連の“後手後手”を批判された総理や加藤厚労相は、答弁で呪文のように「人権」と唱えるばかり。他国のような毅然としたウイルス対策を取れずにいる。

 作家の百田尚樹氏が言う。

「日本政府は、武漢が封鎖されても中国からの観光客を入国させていました。遅まきながら、武漢を含めた湖北省からの入国者は制限されましたが、すでに中国全土に感染が広がっている状況では意味がない。日本の危機管理能力が、他国と比べて極端に脆弱であることが証明されてしまった。前例のない事態に陥った時こそ決断できるのが真の政治家で、真価が問われる場面だったのに残念です」

 その場凌ぎの遅きに失する政策で、国民の不安は“募(つの)る”一方なのだ。

週刊新潮 2020年2月13日号掲載

特集「官邸が蔓延させた『アベノウイルス』」

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