吉田淳一(三菱地所社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか

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東京の魅力を高める

佐藤 本業の方では、大阪のあべのハルカスを超える日本一の高さのビルを作ることになっています。

吉田 「東京駅前常盤橋プロジェクト」ですね。丸ビルが三つも入る3・1ヘクタールもの土地に、2棟の高層ビルを中心とした再開発を計画していますが、その一棟が約390メートルのビルになります。首都東京の玄関口、東京駅の目の前にふさわしいものにします。

佐藤 完成はいつになりますか。

吉田 2027年度です。

佐藤 その一帯はどんな場所になるのですか。

吉田 もともと我々がエリアマネジメントをしている大丸有(大手町、丸の内、有楽町)から日本橋や兜町につながる地域を、東京都が「東京国際金融センター」という国際金融拠点の軸として策定しているんです。その中心的な役割を果たしていくことになりますが、各国から金融関係者が集まりますから、日本の魅力を強く発信できる場所にしていきたい。それには地方との連携も必要です。実はもうすでに日本の地方で作っている独自のコンテンツを紹介することを始めています。具体的には、静岡県裾野市が開発した薄層緑花システム(FSGシステム)です。この緑化技術を活用し、常盤橋街区内中央通路を緑あふれる空間に演出すると同時に、同市のPRも実施しています。

佐藤 三菱地所は丸の内の地主さんとして知られているわけですが、そのお隣なんですね。

吉田 そうです。丸の内エリアに関しては、大手町、有楽町の地権者とともにネットワークを作って、もう30年以上、街のハード面はもちろん、ソフト面を含めていろいろ連携をして街づくりをしてきました。その取り組みが一昨年、日本サービス大賞の内閣総理大臣賞に選ばれています。「街のブランド化に向けた丸の内再構築の地域協働型プロデュース」と言うのですが、平日だけでなく土日も賑わう丸の内を作り出した。今後もさらに発展させ、イノベーションの発信基地に向けた街づくりをしていくつもりです。

佐藤 いま世界では、都市間競争が激しくなっています。

吉田 だから東京の魅力をいかに高めていくかが、非常に大事です。ビルだけではなくて、オフィスのあり方や街づくりも含めて、魅力的なものが増えていかないといけない。東京を盛り上げないと、日本は沈んでしまいます。日本を代表し、世界から注目されるポイントが必要です。もちろんそれは大阪とダブルでもいいし、福岡と一緒でもいい。

佐藤 今年は東京でオリンピックが開催され、2025年には大阪で万国博覧会が開かれます。東京にしても大阪にしても、傍から見ると、湾岸地域の開発にしくじったな、という印象があります。だからそれらのイベントで、何とかしようとしているように見える。世界的に都市の再構築が進んでいる中、日本は、国家が明確な青写真を作るとか、ビジョンを示すなどの政策面が弱くはないですか。

吉田 そうなんです。都市間競争で言うと、アジアのシンガポールや上海などの都市は、国がマスタープランを決めて開発をどんどんやっていくため、スピードがまったく違います。そもそも日本では国が決めるのか、都が決めるのか、あるいは区にがんばってもらうのか、それさえ曖昧です。さらに民間とどう連携するかは、もっとわからない。築地もそうですが、東京湾をどう世界に開かれたゲートウェイにしていくか、方針がありません。各地方自治体がバラバラにやっていますが、それが効率的なのかどうか。また検疫の問題もありますし、全体としてどう作っていくのか、きちんと決めたほうがいい。そこは国が率先してやっていくべきところだと思います。

佐藤 最近、地政学が注目されています。地理的要因が政治に与える影響を無視できないというのが地政学の基本的な考え方ですよね。人口の都心回帰の流れは世界的な現象で、国家もそれをわかっているから、都市間競争が高まっている。その中で都市を効率的にどう構築していくかは極めて重要です。

吉田 我々も有楽町エリアなど、もっと開発をしていきたいんですね。今、都やJRと協議していますが、全体のコンセプトがなかなか決まらない。そこが大きな問題なんです。

佐藤 政治がある程度、方向性を示さなくてはならないわけですね。

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