吉田淳一(三菱地所社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか

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新事業はトマトに瞑想

佐藤 2年経って、社員の様子はどうですか。

吉田 今まで古いお役所的なオフィスに浸かっていた人も、ようやく新しい働き方に慣れてきた、というところですかね。フリーアドレスやテレワークは、基本的に紙の資料をなくすことが前提になります。前から電子決裁システムを導入しているので、あとは資料を電子データとして保存し、紙をストックしなくなればいい。そこをみんなが徹底してくれました。うまくいっているのは、それが大きい。

佐藤 霞が関の役所などは、電子化とともに紙の使用量は増えていると思います。とりあえずプリントアウトもすることになりますから。

吉田 そういう話はよく聞きますね。また政治家の方々に説明に行く際には、まだ必ず紙資料を持っていかなければならないでしょう。

佐藤 そうです。政治家に持っていく際は、多くてもダメで、総理大臣ならA4の紙2枚が限度、国会議員でも5枚ですね。ただそこにある内容は何を聞かれても答えられるように、ファイルを2冊くらい持っていく。それらはもう千ページくらいはありますからね。

吉田 それでは紙の撤廃は難しいでしょうね。

佐藤 現状では無理だと思います。ところで、「働き方改革」の大号令もあって、今は働き方全体が変わりつつある。IT企業などではオフィス不要論もあります。

吉田 弊社もテレワークなどの制度がありますが、やはり人と人がコミュニケーションをとって新しい価値を生み出していく、それが大事だと思いますね。

佐藤 人材育成の方はいかがですか。いまは新卒一括採用、年功序列の日本的なモデルが批判にさらされています。

吉田 そこは他の会社と同一に考えにくい会社だと思っていまして、私が入社した時は事務系同期が15人、現在の新入社員だと40人くらいいます。彼らにはいろんな場面でチャンスを与えていきますが、どちらかというと同期間で差をつけない。ラグビーの「ONE TEAM」じゃないですけども、それがまとまりを作り出しているところもあります。我々の事業は、ビルにしろ住宅にしろ、すぐに成果が出るようなものではないし、スペシャリストでもない。外部の専門家とどれだけうまく一緒にやれるか、そうしたコーディネーター的な経験値を積んでいくことが一番大事なんです。

佐藤 それはゼネラリストを育てていくということですね。

吉田 ゼネラリストではあるのですが、その人に熱意があるから自分の能力を最大限発揮して協力していこうと専門家たちが思ってくれる、そんな唯一のコーディネーターになっていくことが重要です。

佐藤 人間力ですね。

吉田 それが一番大きいと思っています。ただ、入社した中には、自分はこういう分野で何かを突き詰めたいんだ、というタイプもいて、転職する人もいる。私はそれもアリだと思っていて、逆に彼らには転職先で自分を鍛えて、弊社とコラボレーションできるようなことがあったら、持ってきてほしいですね。それはもう最優先でやりますよ。

佐藤 なるほど。役所がまだまだ年次を重視しているのは、難関試験を潜り抜けてきた優秀な人たちが、実力主義で叩き合いを始めたら、内部でとんでもないエネルギーが浪費されてしまうからです。それだと、組織としてまとまった仕事ができない。

吉田 そうですね。我々も海外に100%子会社がありますが、その一つのロックフェラーグループ社などは、どちらかというと年功序列に近いですよ。

佐藤 実際、アメリカの会社にも年功序列的なところはありますからね。幹部クラスになる人はそんなに転職していない。

吉田 コカ・コーラ社などもそうですね。

佐藤 そうした社風の中から、新しい事業がいろいろ出ていますね。例えば、トマトを作られている。

吉田 あれは糖度が高く、ものすごく甘いトマトなんです。初めて食べた時には、感動しましたね。特殊な土壌を作る技術を持つ会社がありまして、そこと連携してやっているんです。トマトは世界的に見ても消費量が多い野菜の一つです。インバウンドで日本に来られたお客さんに、ここでしか食べられないものとして人気が出たらいいし、丸の内の飲食街でも提供していきたいですね。

佐藤 そういう企画は社員から上がってくるのですか。

吉田 もうずいぶん前から社内に新規事業提案制度がありまして、そこから出てきた企画ですね。

佐藤 本業と関係なくてもいい?

吉田 ええ、日本の社会課題の解決につながるような事業であれば、三菱地所がやってもいいのだと考えています。

佐藤 他にはどんなものがありますか。

吉田 若手の女性2人から、メディテーション(瞑想)とお茶を組み合わせた「Medicha(メディーチャ)」という没入体験型スタジオ事業の企画が出てきて、いま東京・南青山にお店があります。80分のコースで、感性を刺激する空間の中で瞑想と煎茶を味わってもらいながら、頭をリフレッシュしていただく。他にも様々な人気フィットネス施設を入会金等不要で自由に“都度利用”できるWEBサービス「GYYM(ジーム)」の開発などもありますね。

佐藤 やはり新しいオフィスになって、こうした提案も増えましたか。

吉田 はい、毎年増えています。

佐藤 何件くらいあるのですか。

吉田 今年度は26~27件かな。主に中堅・若手が出してきますね。その層にはだいたい400人くらいいて、そこから毎年30件ほど提案があります。今は就業時間の10%を自己成長のために自由に使っていいという制度もありますから、それを利用している人もいます。

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