台湾総統選「蔡英文」再選のウラ 中国共産党のあからさまな支援に台湾住民が反発

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台湾の今後――日本はどうする?

 台湾と香港の間には決定的な違いがある。まず、台湾では選挙で総統を選ぶ民主主義が確立されている。また、台湾は自前の軍隊を有している。そしてなにより、香港の帰属先は法的に「中国」と決まっているが、台湾は帰属未定で、それは最終的には、台湾住民が自ら決めることなのだ。

 蔡総統の最近の演説では、「中華民国」よりも「台湾」や「この国」という表現が増えている。これは台湾の実情に合わせた用語法といえる。直近の世論調査でも、「自分は台湾人」と答えた人は過去最多の60%を超え、「台湾人意識」の向上を裏付けている。逆に「自分は中国人」という回答は3・5%に過ぎなかった。

 だが、それでもまだ、蔡総統が次の任期4年の中で公民投票等を実施し、国名を「台湾」に改称するには早い。かつて、民進党の陳水扁政権は、公民投票を急ぎ過ぎたため、中国の猛反発を受け、米国からも批判されて失敗した。蔡総統は、いきなり「台湾」への改称を目指すのではなく、たとえば「中華民国台湾」もしくは「台湾中華民国」といった名称を、ギリギリのところで残しておくだろう。

 中国は今後も、硬軟織り交ぜた圧力を、ますます激しく台湾に仕掛けてくる。それでも、ボールは中国側に置いておいた方がよい。その上で、中国が投げる剛速球や変化球を打ち返さなければならない。かつての李登輝元総統が、ボールを常に中国に持たせて、飛んでくる球を的確に打ち返し続けたように。台湾側から現状を変えない限りは、仮に中国が一方的に武力を使った場合には、「台湾関係法」に基づき米国が確実に台湾を防衛するはずだ。

 安定した政権運営には、経済政策も極めて重要となる。蔡総統は1期目から、「経済の悪化を改善したい」と述べていた。そのための戦略が「新南向政策」だ。この政策の源流は、李登輝元総統らが推進した東南アジア諸国との経済協力で、中国に依存しない形で台湾経済を活性化するというもの。蔡政権は、日米の企業や、大陸から戻ってくる台湾企業、そして東南アジアの企業との連携によって、経済の活性化を図ろうとしている。

 この政策なら、日本も連携可能だ。例えば、タイには1000以上の日本企業が進出しているし、べトナム・インドネシア・マレーシアとの経済連携も効果的だろう。また、台湾産の果物を中国に輸出できないなら、日本に輸出すればよい。ただし台湾は、東日本大震災の影響で、福島県などの農産物の輸入をまだ認めていない。放射能汚染は問題ないという科学的根拠を日本が示したにもかかわらず、それを台湾側が公開しないためで、これは極めて不可解だ。とはいえ、この点についても、再選後の蔡総統は「適切に処理する」と明言している。日台の連携という観点から、まずはその問題での有言実行に期待したい。

井尻秀憲
1951年、福岡県生まれ。東京外国語大学名誉教授。同大学中国語科卒業。カリフォルニア大学バークレー校政治学部大学院博士課程修了。政治学博士(Ph.D.)。筑波大学助教授、東京外国語大学教授などを歴任。国家基本問題研究所客員研究員も務める。『激流に立つ台湾政治外交史――李登輝、陳水扁、馬英九の25年』(ミネルヴァ書房)、『中国・韓国・北朝鮮でこれから起こる本当のこと』(扶桑社BOOKS)、『アジアの命運を握る日本』(海竜社)、『福澤が夢見たアジア――西郷の大変革』(桜美林大学アジアユーラシア研究所)など著書多数。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年2月10日掲載

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