「大津園児死傷事故」の迷走 やりたい放題の新立被告について被害者の弁護士が語る

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理解が難しい被告の行動

 前代未聞の裁判――そう言えるだろう。大津地裁は1月22日、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)やストーカー規制法違反などの罪に問われている新立文子被告(53)の保釈を取り消した。中日新聞などは「同日に地検職員が身柄を拘束した」と報じた。

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 再び拘置所に戻された新立被告――こう説明されても、なかなか理解できない方もおられるだろう。ならば大津園児死傷事故で逮捕された女性と聞けば、お分かりになるのではないだろうか。

 まずは事故を振り返ろう。2019年5月、滋賀県大津市の交差点で右折車と直進車が衝突、散歩中の保育園児2人が巻き込まれて死亡したほか、園児11人と保育士3人が重軽傷を負った。この事故で右折車を運転していたのが新立被告だった。

 後に詳しく見るが、新立被告は大阪のABCテレビ(朝日放送)のインタビューに応じ、遺族や被害者の心情を踏みにじる発言を行った。さらに、判決公判で従来の主張を撤回、裁判所が苦渋して審理のやり直しを決断するなど、常人にはなかなか理解できない行動が目立っている。

 改めて、どんな裁判が行われてきたのか、被害者のサポートを行っている石川賢治弁護士に取材を依頼した。石川弁護士は弁護団の一員として、それこそ事故の発生当初から関わっているという。

「事故直後から、弁護士有志が犯罪被害者を支援する取り組みを開始しました。交通事故では様々な法的手続きが行われ、一般の方には理解が難しいことも多い。弁護士として手続きの説明を行ったり、マスコミの取材申請に対応したりしています。今回の事故では直進車の起訴を求める意見書も地検に提出しました。被害者の皆さんは真相究明をはじめ様々な想いで裁判に参加されています。その想いに少しでも応えようと、今も10人以上の弁護士が弁護団を結成して活動を続けています」

 事故が発生すると、右折車の新立被告だけでなく、直進車を運転していた女性も自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)容疑で滋賀県警に現行犯逮捕された。

 だが直進車の女性は、事故当日の5月8日夜に釈放。弁護団は6月13日、直進車を運転していた女性に関しては、「被害者の声に耳を傾け、心情に寄り添った対応を行ってほしい」と滋賀地検に意見書を提出した。しかし翌14日、嫌疑不十分で不起訴が決定している。

 そして7月17日、初公判が大津地裁で開かれた。新立被告は「間違いない」と起訴事実を認めた。

初公判から被害者は被告に憤り

 産経新聞が翌18日に掲載した「保育園児死傷初公判 右折車の女、起訴内容認める 大津地裁」から検察の冒頭陳述をご覧いただく。

《被告は事故当時、知人から借りた乗用車を運転していた。買い物から帰宅途中、交差点の右折レーンに入り、歩道で園児らが集団で信号待ちをしていることを確認。「別の場所で見た園児らと同じ保育園か」「別の方向に散歩に行くのか」などと考え事をして注意力が散漫になり、対向車の有無に留意しないまま右折を始めた》

 初公判には被害者も出廷。検察官の後方に弁護団と共に着席した。単に裁判を“傍聴”したのではなく、被害者として“参加”したのだ。

 初公判が終わると、弁護団は会見を開いて報道陣の質疑応答に答えた。すでに被害者は新立被告に強い違和感を覚え、憤りを感じていた。

 朝日新聞が翌18日、大阪地方版に掲載した「被告の態度には疑問 大津園児死傷事故、弁護団が会見 /滋賀県」によると、記者から《被告は「信号待ちをしている園児のことを考えていて注意散漫になった」というが、被害者家族の受け止めは》との質問があり、弁護団は次のように回答したという。

《考え事の内容を最初に耳にした時は「なんやそれは」とあきれた。園児が飛び出さないかを注意していたのに、前方は注意していないというのは、意味不明で理解不能だ。憤りを感じている》

 同じ日のNHKも「大津・園児死亡事故初公判 園児の保護者がコメント 『被告の態度は残念』」を報じ、保護者のコメントを伝えた。

《「被告の法廷での態度は重い罪を犯した人のものではなく、謝罪する姿勢も見られず、反省しているようにも見えず、残念だった」》

《「被告は私たちと目を合わせず、うなだれることもなく、被害者を前にしているという様子ではなかった」》

 さらに、被害女児の母親がNHKに宛てた手紙の全文も報じた。取材依頼を行うと、心境などを手紙で回答したという。やはり新立被告への憤りを表明している部分だけをご紹介する。

《加害者が自分を守ることに必死で、私達に対しての謝罪が遅かったことや形式的なものであったことに憤りを感じています。絶対に許せません。ドライブレコーダーでの様子も、子供たちが下敷きになった状態のまま、すぐに車から出て助けようともしなかったのを見て、「どうしてよいかわからなかった」「パニックだったから」という言葉で済まさないで欲しいです。あんなに皆が叫んでいるのが聞こえなかったなんてありえないのです。あの場で同じように轢かれた先生方もすぐに足を引きずりながら必死で子供たちを助けようとしていたんです》

 ところが9月末、誰も予想もしていなかった事態が発生する。9月30日に滋賀県警は新立被告をストーカー規制法違反、脅迫、強要未遂の容疑で逮捕したのだ。

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