僕はADHDで良かった…47歳漫画家が語る発達障害との付き合い方

国内 社会 2020年1月28日掲載

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「発達障害」には暗く後ろ向きなイメージがつきまといがちだ。世間を震撼させた事件の加害者が、発達障害だったと取り沙汰されることも少なくない。ならば、当事者は自身の障害をどのように捉えているのだろうか。先頃、自身の体験をまとめたコミックエッセイ『47歳漫画家 ADHDと仲良く暮らしています。』(ビジネス社)を出版した漫画家の松田望氏に話を聞いた。

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「2010年、37歳のときに医師からADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断を受けました。症状の重さは中度だそうです。重度になると、身体を揺すり続けて止まらなかったり、一方的に話続けて会話が成立しなかったりする人もいるそうです。自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)の人はADHDを併発していることが多く、対人コミュニケーションの難しさは非常に似ています」

 と、語る松田氏。第一印象からは、発達障害の当事者である様子はうかがえない。

 松田氏によれば、ADHDにはざっくりと「不注意」「多動性」「衝動性」の3種類の症状があるという。ご本人はなかでも、集中力のコントロールが難しい不注意優勢型だという。

「短期的な記憶が苦手で、スマホや家の鍵をなくすことは日常茶飯事です。そして、逆に集中し過ぎると便意を忘れてしまうので、ウンコを漏らすこともあります。ミスも多く、最近の話でいうと、『年賀状』がとても大変でした。まず、ハガキを買いにコンビニに行ったのですが、クレジットカードしか持っておらず、使えないお店だったので買えませんでした。そこで一旦帰宅し財布を持って再度コンビニに行ったものの、今度は財布の中にお金を入れるのを忘れていた。三度目の正直、満を持して札入れをカバンに入れてコンビニへ向かったのですが、突然、途中にある公園で写真を撮ろうと思い付いた。写真をパシャパシャ撮っているうちに目的を忘れ、そのまま帰宅してしまいました。年賀状を買えたのは、4回目のことでした。不注意優勢型の僕の日常は、いつもこんな感じですね」

 これでは、ADHDに翻弄される日常は苦労が多いように思う。しかし、一方で、松田氏はADHDから“恩恵”も受けていると強調する。

「たしかに苦労もありますが、ADHDの特性が僕にとってはプラスに働くことも多いです。眼前の作業にだけ集中力を合わせることができれば、“過集中”が可能となります。例えば、漫画を描いていると、その主人公に自分がなりきり追体験できるんです。食事や睡眠、便意ですら忘れ、作業に没頭してしまいます。僕の絵の技術もこのような部分からきているかもしれません。漫画家という仕事を続けることができるのも、ADHDだからかもしれませんね。また、感覚から入る情報量が多いので、近所の散歩も僕にとっては冒険です。見えるもの聞こえるもの、匂いや触覚、全てが新鮮で楽しいですから。僕自身はADHDでよかったと思います」

 ADHDを障害ととらえていない松田氏だが、家族や周囲の理解はあったのだろうか。

「昔は今ほど発達障害が認知されていなかったので、学校や家でも僕に障害があるとは誰も知りませんでした。しかも、成績は良い方だったので、落とし物やADHDが原因のミスをしても、母からは僕が怠けているからだとガミガミと叱られ叩かれるだけでした。年末に帰省した際に、自分の障害のことや苦労話をしてみたのですが……。母親は『そうなの。でもあんたは頭が良かったから』とイマイチぴんと来ていない様子。父親にいたっては『うちの子に障害があるわけがない! そんな子は産んでない!』と怒り出す始末でした。僕の悩みを打ち明けても『みんな大変なんだ!』と取り付く島もなく、両親が僕の障害を根本的に理解することは難しいかもしれませんね」

 いわば孤立無援状態のなか、松田氏はADHDをどう克服したのだろうか。

「今回の本にも描きましたが、メモやアラームを活用して対策をマニュアル化しています。最近では、鍵や財布など持ち物を全てチェーンでくくって落とさないようにしてます。また、確定申告などの事務作業が苦手なのですが、“ベイビーステップ”といって、具体的にやる作業を分解して書き出してから、一つ一つ着実に行うようにしています。確定申告の際は、まずは領収書を分類する、提出書類を揃える……などです。なんとなく『やらないといけない』と思うだけではすぐに忘れてしまい、ズルズルと時間だけが過ぎてしまうので。単行本の〆切を守るのも大変でした。一週間や1ヶ月単位の約束はなんとか守れますが、長期的なスケジュール管理は不得意なので、ベイビーステップでまずはやるべきことを理解することから始める必要があります」

 長年、自身で研究して培ってきたADHD対策で、以前よりも生活しやすくなったという松田氏。そこにはかなりの苦労があったと思うが、彼の話ぶりからはネガティブな印象は受けない。

「障害は捉え方ひとつで特性に変わります。僕はよく物をなくしますが、見つかったとき非常に嬉しいです。短期記憶が苦手なので、その特性を活かし、リビングの本棚の上にトイレットペーパーを置いておきます。トイレで紙がなくなったとき、部屋中を必死にあちこち探して、本棚のトイレットペーパーを見つけたときの喜びといったら! ADHDで悩む人たちも、物をなくして落ち込むのではなく、宝探しを楽しむくらいの気楽な気持ちでいけば、もっと生きやすいかもしれませんね」

 そんな松田氏の体験を描いた本が『47歳漫画家 ADHDと仲良く暮らしています。』(松田望 著、ビジネス社)である。自身の壮絶な日常を明るくコミカルに描き、大笑いしつつも病気への理解が深まる内容となっている。手帳やタイマーなどを使ったADHD克服マニュアルも大公開。ADHDの捉え方が変わる一冊なので、是非読んでみてほしい。

週刊新潮WEB取材班