貴乃花の「被害者モード」がすべての発端だった 人間社会の地雷とは何か

国内 社会 2020月1月3日掲載

  • ブックマーク

家庭でも、職場でも

 まったく悪気なく言った一言で大喧嘩になる、ということは日常生活で珍しいことではない。

 結婚している方であればなおさらだろう。軽い気持ちで「これやっておいて」「好きにしていいよ」なんてことを口にしたら、

「あなたはどうしていつもそうなの」

 という感じで食ってかかられたといった経験を持つ方は少なくないはずだ。

 会社でも似たようなことはよく起きる。

「そのアイディアは何だか既視感があるような……」

 素直に感想を言っただけなのに、

「アンタはいつもそうやって俺を否定する! とにかく俺のことが嫌いなんだろう! 表に出ろ」

 という調子でキレられる、なんてこともあるだろう。

 いずれの場合も、知らないうちに相手の地雷を踏んでいた、ということになる。

 その原因はどこにあるのか。数多くの企業の危機管理コンサルティングを行ってい(株)リスクヘッジの田中優介社長は、「モードの違い」に注目せよ、とアドバイスをしている。田中氏の著書『地雷を踏むな』で、自身の体験として紹介されているのはこんなエピソードだ(以下、引用は同書より)。

 ある時、田中氏のもとに医療系ベンチャー企業が入社式直後の研修の依頼をしてきた。依頼者は、

「『鉄は熱いうちに打て』ですから、なるべく厳しい話をして下さい。学生気分を抜くためにも、危機管理の大切さや恐ろしさを教えてください」

 と言う。

 田中氏は「なるほど、きっと浮かれた気持ちを引き締めたいんだな」と思う一方で、こう思ったそうだ。

「自分が学生だったら、会社にぜひ来て欲しいと言われたと思って入社したのに、いきなり手のひらを返すように厳しい話ばかりされたら、違和感を覚えてモチベーションが下がってしまうのではないか」

 もちろんビジネスの厳しさを伝えるのは大切だ。しかし、「祝賀モード」の新入社員に対して、「教育モード」を前面に出して頭ごなしに厳しい話を連発するのが効果的と言えるのか。

「結局、その研修では、剣道を例に出しながら『世間を渡るにあたって必要な防具(面や胴や小手)をどう身に着けるか』という話をしました。危機管理について語るのでも、こうした例え話を前面に出すのか、それとも『社会は厳しいから油断するんじゃねえぞ』というモードでは印象は全く異なります」

貴乃花親方の相撲協会退職

 同書によれば、このモードのギャップが招いた悲劇が貴乃花親方の相撲協会退職だという。

「弟子の貴ノ岩が日馬富士に暴行を受けた時に、親方は協会に連絡することなく、警察に被害届を提出しました。

 背景には、過去の様々な経緯があったことでしょう。また、真面目な貴乃花親方は平素から協会のやり方への不満や不信感を抱いていたようです。

 そのため常に貴乃花親方は、協会に対して『臨戦モード』でした。一方で、協会執行部にはそこまでの緊張感はありません。暴行事件直後であっても、貴乃花部屋と正面から戦うといったモードにはなっていなかったように思われます。

 そのため、いきなり臨戦モードに基づいた貴乃花親方の行動に面喰らい、また腹も立ったことでしょう。もしも、双方がモードの違いに意識的であったら、どこかで擦り合わせができたかもしれません」

 この分析を裏づけるかのような発言がある。つい最近、貴乃花さんは、「週刊文春」の対談記事の中でこんなふうに当時を振り返っているのだ(2019年12月12日号)。

「事件が発覚した後はあの子(貴ノ岩)のために動いていたんですけど、いま考えると自分のためにやったところもあるような気がして」

「色んなことを想像すると、もしかしたら自分の代わりにあの子が狙われたのかもしれないと思うようになったんですよ」

 つまり、協会が自分に対して攻撃をしかけてきていることを前提にした「被害者モード」の思考が当時、ベースになっていたというのだ。それゆえに貴乃花さんの反応もついつい過激な方向に走ってしまった。

 家庭内や会社内でのトラブルでも、これはよく見られることだろう。「いつもいつも私ばかりに面倒を押し付けて」「常に俺を無視している」といった思いこみが片方にあると、相手方の何気ない言動が発火点となってしまうのだ。田中氏はこう語る。

「まさに、モードの違いという意識のギャップは、人間社会の地雷と呼ぶべきものなのです。自分と相手とのモードの違いというギャップ。それを埋められないのであれば、しばらく少し距離を置くというデザインが、望ましいのではないでしょうか」

 これは相手の言動にカチンと来た時にも覚えておいたほうがいいことだろう。すぐに怒ったり抗議したりする前に、自分とはモードが違うかもしれない、と考えて頭を冷やすという手もあるのだ。

デイリー新潮編集部