闘将・星野仙一の再来 中日「与田監督」 審判との飽くなき闘争

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「昇竜復活」を2019年のスローガンに、自らがルーキーだった星野仙一監督時代の「プロ意識も高く、勝負にこだわった時代」への回帰を目指した中日・与田剛監督。“燃える男”星野監督のイメージそのままに、納得がいかない判定に対しては、憤怒の表情で猛抗議を行い、“闘将の再来”を印象づけた。

 4月21日のヤクルト戦(ナゴヤドーム)、1点リードの5回表1死二塁、又吉克樹が代打・上田剛史を二飛に打ち取った際に、二塁走者・雄平が飛び出してしまう。捕球した堂上直倫が二塁ベースカバーに入った京田陽太に送球。併殺でピンチを逃れたかに思われた。

 ところが、今岡諒平二塁塁審の判定は「セーフ!」。しかも、同塁審は二塁ベースに背を向けており、このプレーを見ていなかったにもかかわらず、あたかも見ていたかのようにジャッジするのは、明らかにおかしかった。

 直後、与田剛監督が怒り心頭でリクエストを要求すると、問題の場面で、今岡塁審が一塁側を向いている“動かぬ証拠”が大型スクリーンに映し出されため、判定はアウトに覆った。

 試合は中日が7対5で勝ったが、球団は「プレーを見ていない審判がなぜ判定を下すのか聞きたい」としてNPBに意見書を提出。NPB側は、「当該の今岡塁審が、打球(二飛)判定の確認で他の審判とアイコンタクトしているうちに、当該プレーへの確認が遅れてしまった」と回答し、けっしてプレーに関係のない“よそ見”ではなかったことを強調した。

 だが、与田監督は、今岡塁審が「(クロスプレーを)見ていた」と証言していたのに、回答では「見ていなかった」に変わっていたことを問題視。「見ていなかったのに見ていたと嘘をついたことは大問題」とさらなる対応を求めた。NPB側は再度回答し、「見ていた」の証言についても謝罪があったようだ。“闘将”の言い分が全面的に通った形だが、人間、あまり勝ち過ぎるのも考えもの。その後も相次いだ判定をめぐるトラブルでは、一転連戦連敗となる。

 6月6日のソフトバンク戦(福岡ヤフオクドーム)、4対4の8回表2死、中日は大島洋平が右越えに本塁打性の大飛球を放つ。フェンスの一番上の部分に当たって跳ね返ったボールは、グラウンドを転々。その間に大島は一気に本塁を狙ったが、微妙なタイミングながら、判定はアウト。与田監督は直ちにリクエストを要求した。

 映像では、大島の右手がベースにタッチするのが早いように見えたが、「(判定)変更に値する確証を得られる映像がなかった」(小林和公責任審判)という理由で、アグリーメントである「確認できる映像がない場合は、ファースト・ジャッジを優先する」が適用され、判定は覆らなかった。“幻のランニング本塁打”がアダとなって試合に敗れた与田監督は「オレはセーフに見えた。あのジャッジにビックリ」とコメントした。

 さらに同19日の西武戦(ナゴヤドーム)、2対2の9回表無死一塁で、外崎修汰が投前に送りバントを決め、1死二塁となった直後、与田監督は「2度打ちではないか?」と抗議する。打球がワンバウンドしたあと、もう一度バットに当たったように見えたというのである。

 VTRを見ると、確かに打球は地面でワンバウンドした直後、ほぼ垂直に跳ね、もう一度バットに当たってから、弧を描くようにして、投前に転がっていったように見えた。
 2度打ちならファウルで打ち直しになる。だが、審判団は協議の結果、「まったくそう見えない」という意味の回答をしてきた。そして、皮肉なことに、送りバント成功でチャンスを広げた西武はこの回3点を勝ち越し、試合を決めた。

 試合後、与田監督は「どうしてあれが問題ないように見えてしまったのか。近くでそう(2度打ちに)見えた」と不満をあらわにしたが、それから3日後、またしても“疑惑の判定”に泣く羽目になる。

こんなに悔しいシーズンはない

 同22日の日本ハム戦(同)、2対0の4回裏1死三塁、平田良介の三ゴロで松井雅人が本塁を狙うも、判定はアウト。与田監督は捕手・清水優心のブロックを理由にリクエストを要求したが、コリジョンルールは適用されなかった。直後、リクエストの判定決定後の異議申し立ては退場になることを承知のうえで審判団に説明を求め、試合は5分中断。監督就任後初の退場こそ免れたものの、「タイミングがアウトでも、コリジョンに違反すればジャッジが覆ると最初に聞いている。現場が混乱する」と納得しかねる様子だった。

 といった具合に、口角泡を飛ばして抗議する姿がすっかり定番となった今季だが、チームは68勝73敗2分で7年連続Bクラスの5位。与田監督自身も応援歌「サウスポー」の歌詞、“お前”の部分に子供の教育上の観点から変更を求めたことがファンを巻き込んだ騒動に発展するなど、グラウンドの内外でご難続きの1年となった。

 11月21日の納会の席で、「プロ野球界に入って約30年……“こんなに悔しいシーズンはない、恥ずかしいシーズンはない”というオフを迎えることになりました。皆さんの笑顔が見られるように、また来シーズンに向けてしっかりと準備をしていきたいと思っています」と挨拶した与田監督。2年目の来季は、怒る姿ばかりではなく、シーズンの最後に笑顔を見せることができるかどうか正念場だ。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」上・下巻(野球文明叢書)

週刊新潮WEB取材班編集

2019年12月30日掲載

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